
池の水面から岸の草へ、目線が戻るまで
池の水面を見ていた目が、岸の草の先で止まった。午後五時五分、雲の切れ目からの明るさはあるのに、池は空をそのまま映さず、細い揺れを何本も重ねていた。水面に何かあるか確かめようとしていたはずなのに、いつの間にか、岸から伸びた草の葉先を数えていた。
草はきれいに並んでいなくて、一本だけ水の方へ倒れ、その隣は途中で折れたまま残っている。僕はその倒れた葉を、池に浮かぶ細い枝だと思って少し身を乗り出した。見間違いと分かっても、戻って水面を見直すより、葉の根元に付いた小さな泥の跡を見ていた。そこを見つけた自分が少し可笑しい。
昨日の雨のせいか、岸の土は乾ききっていない。靴を近づけるのはやめて、草を避けるように一歩横へずれた。すると水面の揺れが広く見え、さっきまで見落としていた丸い波紋が、岸から少し離れたところで消えた。何が作った波紋かは分からないし、確かめるほどのことでもないので、僕はまた草の高さに目を戻した。
一番高い葉だけを基準にすると、ほかが全部短く見える。そんな役に立たない比べ方をしているうち、池の向こう側はぼやけて、手前の草だけが妙に具体的になった。水面を見るために立ち止まったのに、最後は草を踏まない位置を探している。足元を決めるのに時間がかかり、歩き出す方向もまだ決めていない。








