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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

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夜の窓枠に入り込んだカーテンの端

窓枠からカーテンの端を外す夜

カーテンの端を窓枠の細い隙間から引き出しながら、僕は布の折り目を一本ずつ指でなぞっていた。夜の窓は外の明かりを薄く返していて、ガラスに部屋の輪郭が重なっている。端の部分だけが内側へ折れ、裾の縫い目が少し持ち上がっていた。指を置く場所を変えるたび、布の厚さが微妙に違って感じられる。

最初はそのまま引けば出ると思ったのに、二度引いても布が斜めに寄る。力を足す前に、窓枠のどちら側へ入り込んでいるのかを目で確かめた。左へ寄せると抜けそうで、実際には裾の小さな糸が金具の角に触れていた。僕は一度手を離し、カーテン全体の幅を見てから、端を少し持ち上げた。引っ張った跡がどこまで続いているかも、布を裏返さずに横から見た。

布の裏側には細かな埃がついていた。指先で払うと、白い糸くずが床へ落ちそうになり、落ちる前にもう一度つまむ。こういうものだけは妙に拾える。窓の外は雲の切れ目があるらしく、暗さが均一ではない。部屋の空気は昼より冷たく、開けていた隙間から湿った感じが入ってくる。糸くずを指に残したままにするのが嫌で、布を持つ指を一度入れ替えた。

端を斜め上へ動かし、今度は縫い目を傷めないようにゆっくり抜いた。カーテンは元の位置へ戻ったが、裾の一箇所だけ折れが残った。僕はそこを手のひらで押さえ、窓を閉める前に、布がまた枠へ入り込まない位置を探している。少し右へ寄せてはガラスとの隙間を覗き、もう一度裾の線を指で合わせてから、窓の留め具へ手を伸ばしかけた。

夜の洗面所で白いコップとカウンターに残る四角い水跡

洗面所のコップの底に残った四角い水跡

洗面所の白いコップを布巾で拭いて、いつもの場所へ戻そうとした。持ち上げた跡だけが、カウンターの上に薄い四角形で残っている。コップの底は丸いのに、跡は四角い。縁に沿って水が広がったのか、置かれていた小さな台の形まで一緒に写ったのか、見れば見るほど判断がつかない。僕は布巾を一度たたみ直し、角の部分からなぞった。濡れているというより、乾いた表面の色が少しだけ違う。力を入れると消える気がして、指二本で布を押さえたまま、同じ辺を二度通った。

鏡には洗面台とコップの白さだけが映り、外の明かりは届かない。夜の洗面所では、蛇口の根元に残った水滴まで大げさに見える。跡の四辺を目で数えたが、四つとも同じ長さには見えず、僕は数え直すために顔を少し横へ寄せた。コップを戻す位置も、跡の中央ではなく端に寄せた。底が触れる音を聞いてから、いったん持ち上げ、今度は少し向きを変える。四角い跡と丸い底が重ならないようにしたつもりだったが、右側に細い水の線が残った。

布巾の乾いた面を探して裏返し、線の先へ差し込んだところで、指先がカウンターの継ぎ目に引っかかった。布の端をそこから抜くには、また少し持ち上げる必要がある。僕はコップに触れないように肩を避け、四角い跡の角だけを見ながら、布巾の折り目を一本ずつずらしている。

水滴の残る黄色いガーベラの鉢植え

ガーベラの黄色い花弁を一枚だけ戻す朝

ガーベラの黄色い花弁を、外側から一枚ずつ内へ戻すように目で追っている。昨日の細い雨が残した水滴は、花弁の先ではなく少し内側に丸く乗っていて、僕はそこを避けるつもりで、かえって同じ場所を何度も見てしまう。水滴の輪郭だけを見ていると、黄色の面が少し白く見える。

一枚だけ、隣の花弁より下へ傾いているものがある。指で直せば早いのに、触る前に茎の向きを確かめ、鉢の縁から見える黄色の幅まで見比べる。正面からは小さな差なのに、横へ顔をずらすと傾きが急に大きくなる。こういうときの僕は、花よりも自分の確認の多さに手を焼く。

ガーベラの言葉には「希望」がある。朝の空は雲が途切れたり重なったりしていて、その言葉を明るく受け取るには少し湿っている。けれど、黄色の面が水滴の奥で薄く揺れると、希望という大きな言葉も、花弁一枚ぶんまで小さくできる気がした。

傾いた花弁の根元へ爪を立てないよう、指の腹を近づける。触れたのは先端だけで、直ったのかどうか判然としない。いったん離れて見て、横から見て、鉢の縁の内側まで確認してから、また正面に戻る。僕の視線だけが鉢のまわりを忙しく回り、黄色の縁に残った水を見落としそうになった。

結局、花弁は完全には戻さず、落ちそうな水滴だけを茎の影へ逃がすことにした。窓の外の明るさが少し変わり、僕は鉢を数センチだけ動かしてから、傾きの残る一枚へもう一度指を近づけた。

午後の玄関で靴箱の引き戸に挟まった白い糸

靴箱の引き戸に挟まった白い糸

僕は玄関の靴箱の引き戸を右へ滑らせながら、隙間に挟まった白い糸を指の爪で押さえている。糸は細く、端だけがこちら側へ出ていて、引き戸を動かすたびに少し弧を描く。午後の明るさが床まで届いているので、普段なら見過ごすような白さも妙に目立った。戸の木枠には細い影が一本できていて、糸はその影をまたぐように見えている。最初はそのまま引けば抜けると思った。けれど、軽く引いたところで糸が伸び、靴箱の奥から小さな擦れる音がした。僕は一度指を離し、戸を少し戻して、糸の出ている位置を正面から確かめる。

靴箱の下段には黒い靴のつま先があり、その横に細かな砂が二粒だけ寄っていた。砂を数えたあと、僕は糸のほうへ視線を戻し、戸の隙間に爪がどこまで入るかを試す。糸を切るほどのことでもないので、爪の先を隙間へ入れて、戸を数センチずつ動かす。右へ押す、戻す、また押す。そのたびに白い線の角度が変わる。僕はなぜか、糸の長さよりも、どちらの端が先に見えなくなるかを見ていた。ようやく端が少し太くなったところで、布のほつれらしい節が現れた。靴下か、古い布巾か、家の中のどこかから来たものだろう。指でつまむと乾いていて、思ったより硬い。引き戸を支える手の位置を変え、もう一度だけゆっくり引き寄せると、節がレールの脇で引っかかり、僕は爪をその横へ差し込んでいる。

昼の台所で冷蔵庫の脇に置かれた赤い輪ゴム

冷蔵庫の脇の赤い輪ゴムを一周拭く

台所の冷蔵庫の脇へ転がった赤い輪ゴムを、僕は掃除機を出さずに指先で拾っている。床には昼の光が細長く入り、輪ゴムの影まで黒く見える。昨日の雨の名残で窓を開ける気分ではないが、室内はもう暑く、Tシャツの袖を二度折った。輪ゴムは伸びたまま、冷蔵庫の脚から少し離れたところで平たくなっていた。

拾う前に、僕はその輪ゴムがどこから来たのかを考えた。台所の引き出しには輪ゴムが何本かあるけれど、赤いものは上の段だった気がする。気がする、という言葉は便利すぎるので、引き出しを開けて確認した。赤い輪ゴムは一本減っていた。減っていたことだけは、やけにきちんとしている。

指でつまむと、ゴムの表面に細かな白い粉がついていた。床を転がったせいか、もともとそういうものか、爪でこすっても半分しか取れない。僕は輪ゴムを水で洗うほど几帳面ではないし、汚れたまま戻すほど雑でもない。流しの端に置き、濡らした布で一周だけ拭いた。一周というのが輪に沿ってなのか、布を一回通すことなのか、自分でも決めていない。

冷蔵庫の扉を閉めると、輪ゴムは布の上で少しだけ跳ねた。引き出しへ戻す途中、赤と黒の輪ゴムを並べて、長さを比べてしまう。用途は同じなのに、赤いほうだけ台所の床を知っている。そんな区別をつける必要はないのに、僕は赤い輪ゴムを手前に置き、引き出しを半分だけ閉めたところで、また指を伸ばしている。

雨上がりの朝、鉢植えの白い菊の花びらと水滴

菊の白い花びらを三枚目から追う朝

菊の鉢の白い花びらを、僕は外側から一枚ずつ目で数えている。雨上がりの朝で、葉にはまだ細かな水が残り、雲の切れ間から来る光が花の縁だけを明るくしていた。数えるといっても、途中で隣の花へ移るので、最初から正確な数を出す気はない。三枚目の先に茶色い点を見つけ、顔を近づけた。汚れか傷か、近づく前から決めてしまうと見落とすので、僕はこういう時だけ慎重になる。白い部分を数えていたはずなのに、目は茶色い点の周囲ばかりを行ったり来たりした。

今日の花として菊を調べると、花言葉は「高潔」と出てくる。立派な言葉なのに、目の前の菊は葉の端を少し折り、白い花びらの一部を内側へ巻き込んでいる。整っていないところがある。僕はその折れた葉を指で直そうとして、触れる寸前に手を引いた。水が落ちれば花びらの並びまで変わりそうだった。指先を引いたあとも、葉の曲がり具合だけを目で確かめ、直すならどちら側へ戻すのが自然か、どうでもいいことを考えていた。

鉢の受け皿には昨日の雨の名残が薄くたまり、そこへ葉の影が細長く落ちている。僕は受け皿を動かさず、しゃがむ角度だけを変えた。正面では白く見えた花が、横から見ると中心の黄色を少し見せる。高潔という言葉を花の形に当てはめるより、白の中に混じる小さな茶色を先に覚えておきたい気分だった。

立ち上がる前に、最初に見た花へもう一度視線を戻した。数えた三枚目を探しているうち、別の花びらの先が鉢の縁に触れているのを見つけ、指を伸ばしかけたところで、雲がひとつ動いた。

霧雨の昼前、細い筋が残る濡れた砂浜と静かな海

濡れた砂の筋を靴先で追う

海岸の濡れた砂に細い筋がいくつも並び、僕はそのうち一番浅いものを視線でたどっている。昨夜からの雨で砂は暗く、波打ち際だけが薄く明るい。風は強くなく、霧雨が顔に当たるというより、眼鏡の端に小さな丸を残していく。

筋は波が引いた跡だと思えば簡単なのに、途中で途切れている。水が消したのか、最初からそこまでだったのか、僕は同じ線を二度見て、三度目には隣の線へ移る。砂の粒の大きさも見ようとして、しゃがみかけ、膝を曲げたところでやめる。姿勢だけが大げさになる。

沖は灰色の空と同じ色で、境目がはっきりしない。波が来るたび、筋の先だけが濡れて濃くなり、次の波までの間に少しずつ薄く戻る。僕はその変化を数えようとして、数える数字を忘れ、代わりに波の音が一度低くなったことを覚えている。

砂浜には小さな穴や平たい石もあるが、今日はそこへ視線を広げない。細い線の右側に丸いくぼみが二つあり、鳥の跡に見えなくもない。見えなくもない、という言い方が自分で気に入らず、線へ戻る。靴先で触れることはせず、少し離れた位置から角度だけを変える。

昼前の明るさなのに、雲の下では砂の色が重い。僕は眼鏡を外して水滴をぬぐい、戻したあとで、筋が近くなったのか遠くなったのか確かめる。いちばん浅い線の端にもう一度目を合わせ、そこへ次の波が届く前に、歩幅を半分だけ変えようとしている。

細かな雨に濡れたツリフネソウの花と葉

ツリフネソウの袋を雨の向きから見る

ツリフネソウの袋状の花が、濡れた葉の下でいくつも下を向いている。細かな雨が続いていて、花の先から落ちた水滴が、下の葉に丸い跡を作っていた。僕はまず花の数を数えかけ、三つ目でやめて、いちばん手前の袋の口だけを見ることにした。

花びらは赤紫色で、黄色の小さな斑が奥に寄っている。横から見ると、細い距が後ろへ曲がり、雨の流れとは別の方向を指していた。濡れているせいか輪郭が重く見えるのに、茎は頼りないほど細い。葉の表面に落ちた水滴を避けながら、視線を少しずつ下げた。

ツリフネソウには「私に触れないで」という言葉がある。種の入った実に触れると、殻が弾けることから来たものらしい。僕はその由来を知っているのに、花の距を指で確かめたくなり、指先を近づけてから靴のつま先を見た。

泥が薄くついていた。昨夜の雨で地面が柔らかくなり、歩くたびに靴底の模様が残る。水滴の跡をもう一度見て、今度は花ではなく、茎が葉の付け根からどちらへ出ているかを追った。途中で一本だけ折れたような茎があり、折れ口には水がたまっていた。

僕は傘の内側に響く雨音を聞きながら、花から少し離れた。近づいたときより、袋の形と葉の重なりがよく分かる。言葉を当てはめる前に見ておけばよかったと思い、濡れた靴先を横へずらし、いちばん低い花の口に残った水をもう一度眺めている。

雨の夕方、窓越しに見える雲の境目

雨雲の縁を夕方の空で追う

雨の夕方、僕は空の低いところを覆う雲の境目を、右から左へ目で追っている。雨は細くなったり、窓を続けて打ったりして、雲の色もそのたびに少し違って見える。灰色と呼べば済むはずなのに、明るい灰色の隣に青みの残る灰色があり、僕の中の分類が遅れていく。窓の水筋が視界を横切るたび、同じ雲を見ているのかまで怪しくなる。

雲の下端は一枚の線にならず、薄いところと厚いところが並んでいる。僕は最初、いちばん明るい部分を境目だと思った。けれど、目を少し下へずらすと、その下にもさらに薄い層が見えて、決めた場所がすぐにずれる。空を見ているだけなのに、視線の置き場だけで手間取る。明るさの変化を追ううち、右端に戻る理由まで分からなくなった。

雨粒が窓に残した筋を避けるため、顔を少し横へ動かす。左の端にあった雲の重なりが見えなくなり、代わりに中央の白っぽい面が広がった。僕は一度、雲の数を数えようとして三つ目でやめた。形が続いているのか分かれたままなのか、数える方が空から離れてしまう。念のためもう一度だけ数えかけ、二つ目の前で口を閉じる。

遠くの雲は暗く、近い雲は明るいという順番にもならない。雨の向こうで色が入れ替わり、見ている間に輪郭が薄くなる。窓の端にたまった水を目印にして、僕はさっきより少し低い位置へ視線を戻し、境目の手前でまた目を止める。指でガラスの位置を示しかけて下ろし、左へ流れる薄い層を追い直している。

雨に濡れたフジバカマの細い茎と葉

フジバカマの茎を雨の向きに合わせてみる

フジバカマの細い茎を、雨の向きに合わせるように指先で少しだけ起こしている。茎は完全には戻らず、花房の重さを受けた先だけが斜めに残った。触った指には冷たい水がつき、僕はその水を払わずに、もう一度いちばん下の葉の付け根を見た。付け根には細い茶色の筋があり、そこだけ水の線が途中で切れている。

今朝の雨は強くないのに、葉の表面には粒が多い。葉の縁に沿って並んだ水が一つだけ丸く、ほかは細くつぶれている。葉を少し傾けると、その丸い粒だけが遅れて滑り、先端で止まった。こういう違いを見つけると、花を見るというより、濡れ方の採点をしている気分になる。採点表など持っていないので、僕の基準はかなり頼りない。

フジバカマには「あの日を思い出す」という言葉がある。花を見た瞬間に特定の日が浮かぶわけではなく、茎を起こしては戻し、戻してはまた角度を確かめているうちに、昔、乾いた葉を本の間にはさんだことだけが短く出てきた。紙から少しはみ出した葉先を、あとで切るつもりだった。そのままにしていた。どこで拾った葉だったかは、もう思い出せない。

花房の中央にはまだ開ききらない粒が残っている。僕はそこを避けて、濡れた茎の表面を爪ではなく指の腹でなぞった。起こした茎がまた傾くまで待つつもりで、手を近くに置いたまま、葉の裏側にたまった水を一枚ずつ見ている。上の葉は薄く、下の葉は水を抱えたまま重い。いちばん端の粒が落ちそうで落ちないので、指先の位置を少しずらしている。

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