
横断歩道の影が、白線から外れていた
横断歩道を渡りかけて、僕は白線の端で足を止めた。周囲を確かめたわけではなく、街角の影が白線から外れて、少しだけアスファルトの上へ落ちていたのが目に入ったからだ。17時40分の東京はまだ明るく、八月の熱と湿気がシャツの首まわりに残っている。影だけが、渡る人の決めた線に従っていなかった。
白線の内側には影が細くかかり、外側では輪郭が崩れていた。僕は一度、足先を白線と平行に置き直した。そうすると影のずれも測れそうな気がしたが、靴の先を合わせたところで何が分かるわけでもない。白い塗料の表面には細かなざらつきがあり、端の一箇所だけ黒ずんでいる。そこを見つけてから、影より先に白線の汚れを追っていた。
向こう側へ進むつもりで、足を上げかけた。けれど、次の白線までの間隔がこちら側と同じかどうかが急に気になり、僕は半歩だけ残した。横断歩道は均等に見えるのに、見る角度が変わると線の幅まで違って見える。影の外へ出た靴先を戻すより、今いる位置から次の線を見たほうが簡単なのに、僕は白線の端から目を離せなかった。
雲がかかって光が少し弱まるたび、外れた影の輪郭もぼやけた。風は強くなく、路面の熱だけが足元から返ってくる。渡り始める前の数秒を長くしたのは、たぶん影ではなく、線に合わせた自分の足のほうだった。僕は白線をまたがず、角の欠けた部分を避けて足を出した。








