
雨滴を抱く蜘蛛の巣
軒下を伝う小雨が、庭の隅の低木にまで届いている。湿度は九割を超え、葉の表面はぴかぴかと薄明かりを跳ね返す。蜘蛛の巣は、二本の枝の間に張られた、さほど大きくないものだ。
張り巡らされた糸の上で
巣の主は見当たらない。捕獲網はほぼ無傷で、放射状の糸が傘の骨のように広がっている。そこに直径一ミリほどの水滴が等間隔に並ぶ。水滴は糸の手すりのような横糸に沿って等間隔に並び、まるで透明なビーズを連ねた首飾りのようだ。しかし、すべてが均一ではない。大きな粒は下に向かって垂れ、先端がまあるく腫れている。糸が水滴の重みでわずかにたわみ、重力に負けて落ちる寸前の緊張がある。
光の粒が揺れるたびに
風はほとんどないが、鼠の尾が動くくらいの微風が時おり吹く。そのたびに水滴が一斉に傾ぎ、中心の糸が複雑な網目を描いて震える。水滴の中に、空の色とは別の、黄みがかった光が一瞬宿る。遠くの街灯か、あるいは西の空に残る薄明の残滓だろう。水滴はその光を閉じ込め、くるりと回ってまた元の静けさに戻る。
湿気の輪郭
蜘蛛の巣を隔てて、向こう側の葉の輪郭がにじんで見える。雨滴にピントが合った時、背景はぼやけ、水滴だけがくっきりと浮かび上がる。水滴の表面に写り込んだ逆さまの世界が、小さな魚眼レンズのようだ。
もう一度風が来る。今度は少し強い。水滴のひとつが糸から離れ、垂直に落ちていった。残された水滴は揺れを収め、じっと夜の訪れを待つ。








