
昼前の路地、猫のあくび
外に出ると、もう日差しが強かった。アスファルトから照り返しが立ちのぼって、サンダルの底からじんわりと熱が伝わってくる。自販機で冷たいお茶を買おうとして、小銭入れの中身を確かめる。十円玉が三枚、五円玉が一枚。指先で硬貨をはじいて、結局何も買わずに歩きだす。
路地の角に古い消火器が置かれている。塗装が剥げて、ところどころ錆びている。誰が管理しているんだろう、と一瞬思うが、考えても仕方ない。横を通り過ぎるとき、金属の表面に自分の歪んだ姿が映っていた。
少し先の駐車場で、白い猫が車の下から半分だけ体を出して寝そべっていた。前足をだらりと伸ばし、目を細めている。しゃがみこんでその姿を眺めていると、猫が大きなあくびをした。口の中が真っ赤で、尖った歯が並んでいる。あくびが終わると、猫はまた目を閉じ、耳の先だけが微かに動いた。
立ち上がるとき、膝が小さく鳴った。手のひらを見ると、砂と小さな石がついている。それをズボンの腿のあたりで払ったが、なかなか落ちなかった。
角の駄菓子屋の前を通ると、店主が店先にホースで水を撒いていた。水しぶきが陽の光にキラキラと反射して、一瞬だけ涼しげに見える。その横を、買い物袋を提げたおばあさんがゆっくりと歩いていく。袋から長ネギが一本、はみ出していた。
家に戻る道すがら、さっきの猫はもういなかった。車の下を覗き込むと、影だけが濃く落ちている。手すりの熱さを指先でつまんだまま、地面の影を見ていた。








