
街路樹の幹
歩道の端に立つ街路樹の幹を、少し離れた場所から眺める。高さは三メートルほどだろうか。厚みのある樹皮は縦方向に深く裂け、所々で剥がれかかっている。
刻まれた地図
近づくと、皺の一本一本が異なる太さと深さを持っていることに気づく。左側の一筋は途中で二股に分かれ、その先で緩やかにカーブしながら消えている。まるで地図の川のようだ。指の腹でその溝をなぞる。表面はざらつき、乾いた感触が伝わる。湿度の高い晩の空気が、その上をゆっくり流れるようだ。
光の層
夕方の薄明かりが右側から差し込み、樹皮の凸部を柔らかく浮かび上がらせる。反対側はすでに夜の影が濃く、街灯のオレンジ色が幹の左側面を染めている。二つの異なる色温度が一枚の樹皮の上で混ざり合い、それぞれの凹みの深さを際立たせる。
小さな住人
幹の中ほどの窪みに、数匹のアリが列をなして登っていく。足取りはゆっくりだが、目的地は決まっているように見える。体長数ミリの黒い点が、皺の影を縫うように進む。もう少し上の方では、体を丸めた小さな甲虫が一匹、微動だにせず張り付いている。湿った空気の重たさが、その小さな体にのしかかっているかのようだ。
幹からは土と樹脂、それにほのかに腐りかけた木の匂いが立ちのぼる。アスファルトの熱気と混ざって、この場所だけの空気ができている。街灯の明かりに照らされた樹皮の凹凸は、夜が深まるにつれて少しずつ輪郭を失っていく。アリたちはその変化を知っているのだろうか。歩道には誰の足音もない。








