
受賞作の背表紙
スマートフォンの画面に、芥川賞と直木賞の受賞速報が流れた。部屋の灯りはデスクスタンドだけ。外の空気は湿っているが、風が窓の隙間から入り込む。夜も更けたこの時刻に、文学賞の報せが届くのがどこか不思議だ。
書架から取り出す
立ち上がり、家具の背の低い本棚へ歩く。指で文庫本の背をなぞる——ではなく、目で受賞作の書名を探す。直木賞の『けんぐゎい』はまだ持っていない。代わりに、過去に買った芥川賞作品の一冊を引き抜く。表紙の角が少し折れている。購入してから数年、読んだのは一度きりだ。
表紙の模様
デスクに置き、スタンドの光の下で眺める。タイトル文字は銀色の箔押しで、経年で細かいひび割れが生じている。表紙の絵柄は抽象的な幾何学模様。光の加減で凹凸が浮かび上がる。買ったときは気づかなかった細かな印刷のズレ——版ずれだろうか。長い時間、ただじっと見つめる。
考えるよりも先に
この一冊が選ばれるまでに、どれだけの推敲と葛藤があったのか。作者の名前が紙面に躍るまでの道筋を想像する。だが、想像はすぐに霧散する。手触りのある紙の感触だけが、ここにある。窓の外は相変わらず暗く、風は止んでいる。








