Blog

思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

投稿日が新しい順に表示しています。

透明なアクリル板の下から見上げた構図、折りたたまれた猫の前足のシルエット

透明なキャットステップ、折りたたまれた前足

スマートフォンを持ったまま立っていた。画面に猫の写真が並んでいて、指でスクロールを二度止めた。透明な板の下から撮った角度で、座っている猫の下半分だけが写っている。

前足がどこへ入っているのか、普段は見えない。折りたたんで体の下に収めていると言われるが、実際にどう曲がっているかは確かめたことがなかった。画面の中では透明な板越しに、毛と肉球の境目が薄く浮かんでいる。

拡大して見ようとして、指が滑った。別の写真に切り替わり、そのまま戻さなかった。窓の外で雨が降る音が少し大きくなっている。湿った空気が入ってきていて、スマートフォンの縁がわずかに冷たい。

もう一度画面を下へ動かして、同じ投稿を探した。途中で広告が挟まり、指を止めて画面を見たまま数秒待った。戻ってきたのは似た構図の別の猫で、毛の色が違う。前足の位置も少しずれている。元の写真は見つからないまま、アプリを閉じた。

窓辺の机に伏せたスマートフォンと湯呑み

正午のニュース、横浜の中華食堂

正午過ぎの部屋、西向きの窓の前に立っている。日差しが窓枠を越えて床に長い筋を作る。スマートフォンの画面が逆光で見えにくい。

左手を額の上にかざす。それでもまだまぶしい。親指でリストをスクロールする。ニュースアプリの見出しが順に通り過ぎる。一つ目は別の記事、二つ目もまた別のもの、三つ目に「崎陽軒 中華食堂 リニューアル」とある。

その文字で指が止まる。横浜の駅地下だ。何年か前に、確か夏の終わり、通りがかりに入った。カウンターに座った。冷やし中華を注文した。周りの客の話し声、厨房から聞こえる中華鍋の音。酢の匂いが冷えた空気に混じっていた。レンゲの縁が厚く、口に当たる感触を覚えている。

そんなことを断片的に思い出す。記事の本文は読まない。最初の段落だけ目を通す。開業の日付が簡単に書かれている。それ以上はスクロールしない。画面を暗くして、スマートフォンを机の隅に伏せて置く。机の木目が目に入る。その木目に沿って指を滑らせる。埃が一つ、指に付く。

エアコンの風が首筋を冷やす。窓の外、アスファルトの上の陽炎が視界の端で揺れている。湯呑みを持ち上げる。茶はもう完全に冷えている。一口含んで、そのまま窓の外を見続ける。何も考えていない。手にした湯呑みの温もりが消えている。机の上に置いたままのスマートフォン、画面がふと光る。通知が来たようだ。しかし、それを手に取る気にはならない。湯呑みを両手で包む。冷えた陶器の感触が指先に伝わる。

階段の隅に落ちた青じその葉と葉脈の細部

階段の隅、青じその葉脈

階段を降りる途中、コンクリートの隅に青じその葉が一枚落ちていた。縁が少し破れている。拾い上げると指先に湿った感触が残り、裏側に土の粒が二つついていた。

葉脈を確かめようと光に透かしたが、思ったより筋がはっきり見えなかった。中央の太い筋から細い線が斜めに広がっている。指の腹で表面をなぞると、わずかな凹凸があった。葉の縁は鋸歯状になっていて、破れた部分だけ色が濃く見えた。

匂いを嗅ぐと、青じそ特有の香りがした。それほど強くはない。もう一度葉脈の筋を指でなぞり、縁の破れた部分を親指で押さえた。押さえると葉が少し丸まり、また戻った。

階段の脇に鉢植えがあったことを思い出したが、そこから落ちたのかどうかはわからなかった。葉を持ったまま階段を一段降り、手のひらで葉の重さを確かめた。ほとんど重さは感じなかった。

夏の午前中、街角の自動販売機の取り出し口に置かれた缶

自販機の缶、取り出し口の隅と温度

自販機の取り出し口に手を伸ばした時、缶の表面が思ったより冷たかった。指先で触れて、すぐに手のひら全体で包む。金属の冷たさが皮膚に張りついて、数秒そのまま持っていた。

取り出し口の隅に水が溜まっていた。透明で、端の方に少しだけ。缶を持ち上げる時に指が触れて、冷たさが二種類になった。缶本体の冷たさと、水の冷たさ。どちらも同じ温度のはずだが、濡れた方が強く感じる。

缶を引き出してから、取り出し口をもう一度見た。水滴が三つ、金属の縁に残っている。日が当たっていない部分で、光らなかった。自販機の横を通る人の足音が二つ、三つ聞こえて、遠ざかっていく。

缶を持ったまま、しばらくその場に立っていた。手の中で缶が少しずつ温まり始めたような気がしたが、確かめるために握り直すと、まだ十分に冷たかった。

水差しの縁に這う朝顔の蔓と葉

朝顔の蔓、水差しの縁

庭の朝顔に水をやろうとして、水差しを持ち上げたら蔓が縁に絡んでいた。緑色の細い茎が金属の縁を半周ほど這って、先端は空中で止まっている。

鉢のそばに立てた支柱には届いていない。水差しを少し傾けると、蔓が揺れて葉が一枚こちらを向いた。葉の表面には細かい皺があって、触ると少しざらついている。

花は一つだけ咲いていて、薄い青だった。鉢についていた栽培タグに「はかない恋」と書かれていたのを思い出した。誰が決めたのかは知らない。

水を注ぐと土が黒くなって、根元の小石がいくつか動いた。蔓はそのまま水差しの縁に残っている。外そうとしたが、巻きついた部分が硬くて簡単には取れなかった。

もう一度引っ張ると茎がしなって、葉が二枚重なった。水差しを置いて、支柱の向きを少しずらした。蔓の先がどこへ伸びるかは分からない。手についた土を払って、しばらくそこに立っていた。

朝顔の茎を持つ手元と透明な花瓶

朝顔の茎、朝の水替え

花:朝顔|花言葉:愛情の絆、はかない恋などと言われる

朝顔の茎を持ったまま、しばらく立っていた。花瓶の水が濁っている。三日前に挿したものだったか、四日前だったか。

茎を引き抜くと、水の中で曲がっていた部分がそのまま折れ癖のようになって出てきた。切り口は茶色く変色し、指で触れると少しぬるついた。流しに置いて、花瓶の水を捨てる。底に薄く沈殿物があった。

蛇口をひねって花瓶を洗う。内側を指でこすると、ぬめりが取れていく。水を一度満たしてから捨て、もう一度すすいだ。きれいになったかどうかは、光に透かしてみないと分からない。

新しい水を半分ほど入れて、茎の先を一センチほど切り落とした。断面から白い液が少し滲む。それを軽く水で流してから花瓶に戻した。茎は前より短くなって、花の位置が少し下がった。

窓際に置き直す。葉が一枚、縁から黄色くなりかけていた。

台所の窓辺に置かれた小さなラジオ、流しの横で音を響かせている

台所のラジオ、都会と海の名前

流しの脇に置いたラジオから、知らない人の声が聞こえていた。

朝の話題は服の色の話で、「都会」と「リゾート」という場所の名前が何度か並んで読み上げられた。聞き流していたが、「撥水」という単語のあとに「美カラー」という語が続いて、手が止まった。撥水と美しい色がどう結びつくのか、すぐにはわからなかった。

窓の外は曇っていて、空の境目がはっきりしない。昨日は降らなかったが、今日は午後に雨になると言っていた気がする。それも同じラジオだったかもしれない。

声は「ジレ」という単語を読み上げ、「肩まわり」と言った。肩まわりの何かを抑える、と続いていたが、その先を聞く前に視線が窓の外の樹の葉に移った。風がないのか、葉は動いていなかった。

ラジオはまだ同じ話題を続けている。都会でもリゾートでも、という言葉がもう一度聞こえた。二つの場所の名前が並ぶたびに、どちらにも行っていない自分の位置を考えかけて、

歩道脇のコンクリートの隙間に生えた緑色の苔、朝の湿った質感

歩道脇の苔、朝の湿り

歩道の端、コンクリートの継ぎ目に沿って苔が帯状に広がっていた。緑というより黄色に近い色で、一部だけ濃い緑が混じっている。しゃがんで指先で触れると、思ったより冷たく、表面が湿っていた。

押すと少しだけ沈む。離すと元に戻るが、指先に湿り気が残った。匂いはほとんどしない。隣の継ぎ目には雑草が一本だけ生えていて、葉の先が折れている。苔のほうに手を戻し、もう一度押してみた。

少し離れた場所に水たまりがあって、端のほうだけ乾きかけている。歩道の表面は全体的に湿っているが、場所によって濃淡がある。苔のある継ぎ目は周囲より一段低くなっていて、そこだけ水が残りやすいのかもしれない。

指先を拭わずにそのまま立ち上がった。手のひらに冷たさが残っていて、しばらくそのままにしていた。苔の帯は歩道に沿って五メートルほど続いていたが、途中で途切れている。風が一度だけ吹いて、雑草の葉が揺れた。

朝の横断歩道の白線と影が落ちている路面

横断歩道の白線、朝の影と足

横断歩道の白線を踏んで渡った。影が斜めに落ちていて、白い部分と黒い部分の境目が自分の足元で動く。信号待ちの間、白線の端が少し剥がれているのが見えた。アスファルトの黒い地面が覗いている。

渡り始めると、白線の幅が思ったより広い。靴底が白い塗装面を蹴るたび、わずかにざらついた感触があった。途中で一度立ち止まり、向こう側の歩道を見た。

朝の気温は22度ほど。湿度が高く、路面に湿り気が残っている気がした。白線の上を歩き続けるか、それとも黒いアスファルトの部分を選ぶか、特に決めずに足を運んでいた。

反対側に着く前に、もう一度白線の端を見た。塗装の厚みが薄く、下地が透けて見える箇所があった。それ以上観察せず、歩道に上がった。

朝の交差点で点滅する配送トラックのハザードランプ

配送トラックのハザード、朝の交差点で

信号待ちで立ち止まったら、目の前に配送トラックが止まっていた。ハザードランプが規則正しく点滅している。運転席は空。後ろの荷台ドアが半開きになっていた。

中からは誰も出てこない。あるいはもう誰かが出て行った後かもしれない。トラックのボディには配送会社のロゴが白く描かれている。窓ガラスに曇りがかかっていて、朝のひんやりした空気が残っているようだった。

歩道の端に段ボールが一つ置かれている。トラックから降ろしたのだろうか。でも配達先の家の前でもなさそうだ。横を通り過ぎようとした時、荷台の隙間から白い紙片が一枚、地面に落ちた。

拾うべきか迷ったが、そのまま足を進めた。振り返ると、まだハザードは点滅したままだった。猫が一匹、トラックの影のところでじっとしている。

1 … 38 39 40 41 42 … 174