Blog

思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

投稿日が新しい順に表示しています。

朝の光の中で、手がラベンダーの葉の裏に触れている様子

朝のラベンダー、葉の裏の白さ

ベランダのラベンダーに水をやろうと思った。朝の光はまだ柔らかくて、鉢の土がほんのり湿っているのが見える。

葉の先が少し茶色くなっているのに気づいて、摘もうと手を伸ばした。親指と人差し指で葉の縁をつまむ。そのとき、指が葉の裏に触れて、思ったより柔らかい感触がした。

表は緑なのに、裏側は白っぽい。なんだか粉をふいたみたいだ。人差し指の腹でそっと撫でてみる。ざらざらしているのかと思ったけど、意外と滑らかだった。少し力を入れてこすると、指に薄っすらと白いものがついた。

これは何だろう。毛だろうか。それとも、植物が出す粉みたいなものなのか。前に読んだ本で、ラベンダーの葉の裏には細かい毛が生えていると書いてあったのを思い出した。乾燥に耐えるための仕組みらしい。南フランスの暑くて乾いた土地を想像してみる。あの紫色の花畑の下で、葉っぱたちはこうやって水分を守っているのか。

そういえば、ラベンダーの花言葉は「沈黙」だった。去年、鉢を買ったとき、店先の小さなカードにそう書いてあった。へえ、と思ってそのまま忘れていた。

もう一度葉に触れる。香りがふわりと立った。さっき水をやったせいか、いつもより強い気がする。指先を鼻に近づけると、あの甘くてすっとする匂いが残っていた。

手を止めて、隣の家の壁を見る。朝の静けさの中で、ラベンダーの香りだけが漂っている。葉の裏の白さは、沈黙しているみたいだ。

夏の夜、洗面所のコップを手に取る手元。縁に水跡が光る。

夜の洗面台、コップの縁の水跡

夏の夜、顔を洗おうと洗面台に立つ。窓の外はもう真っ暗で、冷房の効いた部屋から一歩入ると、ここだけ空気が少し違う。湿り気を含んだぬるさが肌にまとわりつく感じがした。

蛇口をひねって水を出し、両手ですくって顔に当てる。少しだけ生ぬるい。もう一度すくい、今度は口に含んでから吐き出す。うがいをしようと、置いてあったコップを手に取った。

コップは陶器製で、白地に細かいひびが入っている。いつからあるのか覚えていない。縁に指をかけると、かすかにざらつく部分があった。目を近づけると、水滴の乾いた跡がくっきりと輪を作っている。なるほど、これは昨日の夜、僕が使ったまま放置したやつだ。

人差し指でその跡をなぞってみる。最初は指先に何も感じなかったが、少し力を入れてゆっくり動かすと、微かな凹凸が伝わってきた。水に含まれていたカルキか何かが固まったのだろうか。少しだけ白く濁った線が、指の動きに合わせて薄れていく。

ふと、コップを逆さまにして底を見る。そこにも同じような跡が点々とある。どうやら洗った後にちゃんと拭かずに伏せておくから、こうなるらしい。まあ、気にしたことなんてなかったけど、よく見ると面白い模様だな、と思う。

顔を上げると、鏡に映った自分が同じコップを持って立っている。目が合った気がして、すぐに視線を外した。口に水を含んでうがいをし、勢いよく吐き出す。コップを軽くゆすいで、また伏せて置いた。次に使うときも、きっと同じように跡がついているんだろうな。

夕方の台所の三角コーナー、指先で触れた水切りの網目と微かな食材の残り

台所の三角コーナー、夕方の水切り

夕食の皿を洗い終えて、三角コーナーの水を切ろうと手を伸ばした。

指先でつまんだ網の部分は、まだ少しぬるま湯の温度が残っていた。人差し指と親指で縁を持ち上げると、予想より軽い。中には茶殻と、夕飯で使ったネギの青い部分が数切れ。それから、なぜか一粒だけ残った米。

網目を親指の腹でなぞってみる。ステンレスの細かい格子が、指紋に引っかかるような、引っかからないような感触。力を抜いてもう一度なぞると、今度は網目の並びを指先が拾う。縦、横、縦、横。思わず三回、四回と繰り返してしまった。

ふと、昨日の雨で湿った空気のせいか、網がいつもよりひんやりしている気がした。指を離すと、わずかに濡れた指先に、台所の照明が小さく反射している。

流しの排水口から、かすかに水の流れる音が聞こえる。どこか上の階で誰かが水を使っているんだろう。音に合わせて、また網目をなぞる。今度は米粒をつまんで、ゴミ箱へ。ネギの切れ端は網にへばりついていて、爪でこそげ落とした。

そういえば、この三角コーナー、買い替えてからもう半年くらいになる。前のはもっと目が粗くて、細かい茶殻がすぐに下に落ちてしまっていた。今のは随分と目が細かい。店で手に取って、なんとなくこれを選んだんだよな。

そんなことを思いながら、三角コーナーを元の位置に戻す。手を拭いて、蛇口の水滴を親指で拭った。夕方の台所は、外の暑さが嘘みたいに静かだ。まあ、あとは何もない。コップに水を注いで、一口飲んだ。

夕方の駅のエスカレーター、手すりに触れる指先と空いた通路

早帰りの金曜、エスカレーターの手すり

仕事が落ちてこないうちに帰ろう。そう思って早めにオフィスを出た。外はまだ明るくて、陽射しも眩しい。銀座の街にセミの声は聞こえない。いたら、多分VUITTONの服を着てるんだろうな、なんてどうでもいいことを考えながら駅へ向かった。

改札を抜けてエスカレーターに乗る。いつもより空いている。前には誰もいなくて、後ろからも足音はしない。右手で手すりのゴムを握った。親指と人差し指で軽くつまんで、少しだけ力を入れる。すべるような、吸い付くような感触。手を離して、今度は指の腹でなぞってみる。ざらついているような、でも滑らかだ。こういうの、昔はもっとベタベタしてなかったかな。なんて思いながら、手をパーに開いて手すり全体を包んでみた。体温がゴムに移っていくのがわかる。

エスカレーターを降りて、乗り換え通路を歩く。壁にある大きな換気口から、生ぬるい風が出ていた。外と変わらないくらいの温度だ。この風、どこから引いてるんだろう。多分、地下の空気を循環させてるだけなのかもしれない。調べてみたけど、詳しい仕組みはよくわからなかった。

電車はわりと空いていた。座れないまでも、吊り革につかまる場所には困らない。いつもは人で埋まっている時間なのに、金曜の夕方ってこんなものか。

一駅すぎて、隣の人が降りた。空いた席に腰を下ろす。窓の外はもう薄暗くなり始めている。早く帰ると、なんとなく一日が長い。

まあ、たまにはこういうのも悪くない。

信号機の押しボタンに触れる指

信号のボタン、押しごたえ

交差点で信号待ちをしていた。ボタンが押されているか確かめたくて、押してみることにした。

人差し指の腹でボタンの面を押す。最初は軽く、真ん中に触れた。表面はプラスチック製で、太陽の熱で少し温かい。指を少しずつ強く押し込むと、あるところで「カチッ」という感触が指先に伝わった。押し切った後の沈み込みはわずかで、指を離すとすぐに戻る。ボタンの中央は少しすり減っていて、光沢があった。何度も押された跡だ。指を離した後、しばらく押した感覚が残る。

で、待ってみたが、信号は変わらない。もう一度押そうか迷って、結局やめた。そういえば、このボタンには触覚的なフィードバックがあるけど、音はほとんど聞こえない。周りの車のエンジン音や、誰かの足音——そういう音に埋もれてしまうんだろう。たまに、押した瞬間だけ聞こえるかすかな音がある。

ふと、昔のボタンはもっと深く沈んだ気がする。もっと大きなクリック感があった。最近のは小型化されて、感触も浅くなったらしい。でも、確かめたわけじゃない。ただ、そういう話をどこかで読んだような記憶があるだけだ。そういえば、視覚障害者用の音響信号は、このボタンには付いていないらしい。押したときの感触だけが頼りだという話を聞いたことがある。

信号はまだ変わらない。僕はもう一度、ボタンの表面を指でなぞってみた。温かい。熱いのか、それとも自分の指の温度か。まあ、どっちでもいいか。

夕方の歩道に落ちた影とアリ

夕方のアリ、指先の重さ

歩道のひび割れに沿って黒いものが動いていた。アリだ。夕方の影が長く伸びて、アスファルトはまだ熱を持っている。しゃがみ込んで、人差し指を横に置いてみた。

アリは指に触れる前に一度止まった。触角を左右に振って、それから前足を指の腹にかけた。登ってくる。六本の足が交互に動く感触が、思っていたよりはっきりしている。指先まで来ると、そこでまた止まった。爪の横を調べるように触角を動かして、今度は手の甲へ降りようとする。

そういえば、アリって自分の体重の何倍も運べるんだっけ。気になって調べてみたら、働きアリは体重の10倍から50倍の物を運べるらしい。種類によって違うけど、クロオオアリなんかは100倍近くまでいくとか。へぇ、と声が出た。人間だったら車を担いで歩くようなものか。

手の甲を歩くアリの重さを感じようとしたけど、ほとんど分からない。でも足が皮膚を押す感じはある。ちくちくというほどでもない、何かが触れている程度。息を吹きかけたら、アリは立ち止まって触角をぴんと立てた。風が収まると、また歩き始める。

そっと手を地面に戻すと、アリはすぐに降りていった。元のひび割れに沿って歩いていく。巣に向かっているのか、餌を探しているのか。見ていたら、草の茎を迂回して、また真っすぐ進み始めた。僕は立ち上がって、手の甲を見た。さっきアリが歩いた跡は、もう何も残っていない。

夏の日差しが差し込む狭い路地に取り付けられた古い金属製の看板と錆びた留め金

遅い朝の路地、錆びた看板の留め金

錆びた金具との出会い

そういえば、あの路地の看板はいつから傾いているんだろう。

商店街の裏手、ゴミ収集所への近道として使っている細い路地。今朝も通りかかったら、壁に取り付けられた古い看板の下側が、前より垂れ下がっていた。近づいてみると、四隅を固定している留め金のうち、右下の一つが完全に外れている。

人差し指で残った三つの留め金を順に触ってみた。左上のやつは、赤茶色の錆で覆われているけれど、まだしっかりと壁に食い込んでいる。指先に錆のざらつきが残る。右上は……おや、これも少しぐらついている。親指と人差し指で挟んでひねってみると、わずかに回転した。ネジ山が潰れかけているらしい。

金属の温度

左下の留め金は、なぜか他より冷たい。日陰になっているわけでもないのに。手のひら全体で触れてみると、やはり温度が違う。材質が違うのか。よく見ると、こいつだけ錆びていない。後から交換したのかもしれない。

蝉の声が急に大きくなった。すぐ上の電線に止まったらしい。顔を上げると、黒い影が揺れている。

看板の表面をなでてみる。塗装が剥がれかけていて、下地の金属が露出している部分がある。そこだけ妙に滑らかだ。誰かが頻繁に触っているのだろうか。でも、この高さだと子供には届かないし……。

小さな謎と放置

外れた留め金を拾い上げてみた。意外と軽い。アルミ製か。ネジの部分を壁の穴に合わせてみたけれど、もう固定できそうにない。穴自体が広がってしまっている。セメントの粉が指についた。

まあ、このままでも看板は落ちないだろう。三点で支えられていれば、なんとか持つはずだ。物理の授業で習った気がする。三角形がどうとか。

留め金をポケットに入れようとして、やめた。路地の隅、配管の陰に置いておく。誰かが直すときに使うかもしれない。

ゴミ収集所への道を急ぐ。手に錆の匂いが残っている。

ノートPCのキーボードと画面の端に小さく光る赤い通知バッジ

遅い朝の通知バッジ、赤い点の重み

コーヒーカップを置いて、画面に戻ろうとしたら、ブラウザのタブに赤い点が増えていた。

人差し指と中指でトラックパッドを撫でる。カーソルがゆっくりと赤い印に近づいていく。タブの文字が「災害支援」という単語で始まっているのが見えた。指先がパッドから浮く。そのまま二秒ほど、手が宙に留まる。

窓から入る光が、キーボードの上に斜めの影を作っている。エアコンの音が一定のリズムで続いている。

親指でパッドを押し込もうとして、やめた。代わりに薬指でタブの横の×印をクリックする。小さなポップ音とともに、赤い点が消える。でも、すぐ隣のタブにも同じような印がついていることに気づく。

昨日も似たような通知を消した記憶がある。あの時は夕方だった。今度は朝か。更新のタイミングがあるのかもしれない。いや、単に見る人が多い時間帯に合わせているだけか。

キーボードから手を離す。指先がひんやりとしている。パッドを触っていた部分だけ、体温が逃げたみたいだ。

画面の右下に、また別の通知が滑り込んでくる。今度は青い。支援とは関係ない、何かの更新通知らしい。

マウスに手を伸ばしかけて、止める。コーヒーがまだ温かいうちに飲んでしまおう。カップを持ち上げると、底にわずかに残った液体が、傾きに合わせて動いた。

樹皮にしがみついた蝉の抜け殻、朝の光

朝の蝉の抜け殻、樹皮の細かい繊維

公園のベンチに座ろうとして、脇の木に目が留まった。蝉の抜け殻が、肩の高さあたりにしがみついている。

人差し指と親指で殻の胸のあたりをつまんでみる。思ったより軽い。いや、軽いというより、ほとんど重さを感じない。指に力を入れすぎないよう、そっと引っ張ると、爪が樹皮から離れる時にかすかな音がした。パチッというような、小さな乾いた音。

殻を顔の前まで持ち上げて、背中の割れ目を覗き込む。中は完全に空洞で、胸の内側に白っぽい糸のようなものが見える。気管の跡らしい。蝉が脱皮する時、この気管も一緒に引き抜くんだとか。へぇ、器用なもんだな。

樹皮をよく見ると、殻がしがみついていた場所に小さな傷が六つ、点々と残っている。爪の跡か。指で触ってみると、樹皮の表面がほんの少しへこんでいるのが分かる。

殻を元の場所に戻そうとして、でもうまく引っかからない。爪を樹皮の隙間に差し込もうとするけど、殻がくるりと回ってしまう。結局、枝の分かれ目のところに置いておくことにした。

ベンチに座り直して、手のひらを見る。薄茶色の粉のようなものが少しついている。殻の表面から剥がれたものか、それとも樹皮の破片か。ズボンで軽く払って、また空を見上げた。

どこかで蝉が鳴いている。まだ朝なのに、もうずいぶん暑い。

朝の街角にある自動販売機の釣り銭口に手を伸ばす様子

朝の自販機、釣り銭口の縁

朝の自販機で缶コーヒーを買おうとして、百円玉を二枚入れた。一枚目はすんなり入ったけど、二枚目が戻ってきた。釣り銭口に指を突っ込むと、縁の金属が思ったより冷たくて、人差し指を一度引っ込めた。

もう一度、今度は中指で探る。プラスチックの返却レバーじゃなくて、その下の金属部分。朝露なのか、昨日の雨の名残なのか、わずかに湿っている。指先をずらしていくと、奥の方に百円玉の端が触れた。爪の先でカチッと音がして、でも取れない。

隣でサラリーマンが同じ自販機にお札を入れている。ウィーンという音。彼は迷わずボタンを押して、ガコンと缶を取り出していく。僕はまだ釣り銭口に指を突っ込んだまま。親指も加えて挟もうとするけど、角度が悪い。

そういえば、自販機の釣り銭口って昔はもっと深かったような気がする。子供の頃、よく忘れられた小銭を探したものだ。今のは浅くて、でも逆に取りにくい。設計者は何を考えてこの深さにしたんだろう。

結局、人差し指の腹で押し出すようにして百円玉を取った。温まった硬貨を握りしめて、今度は慎重に投入口へ。カチャン、今度は無事に入った。ボタンを押す。缶が落ちる音。取り出し口に手を入れると、缶の底がひんやりしていて、さっきの釣り銭口の冷たさを思い出した。まあ、朝だからね。

1 … 36 37 38 39 40 … 174