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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

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夏の午後、自販機の前で缶コーヒーを手に立つ人の手元

午後の自販機、お釣りの音と汗の跡

午後二時を過ぎたばかりの、日差しがまだ真上に近い時間。自販機で缶コーヒーを買った。百二十円のボタンを押して、出てきたお釣りを左手で受ける。小銭が金属の受け皿に落ちる音は、夏になぜかいつもより澄んで聞こえる気がする。まあ、気のせいかもしれないけど。

そのまま缶を右手に持ち替えたとき、左手のひらに汗がにじんでいるのに気づいた。自販機のボタンに触れていたせいもあるけど、暑さのせいのほうが大きいだろう。受け取った百八十円をズボンのポケットに押し込んで、プルタブを開ける。冷たい缶の表面が汗で濡れて、指にまとわりつく。

ふと、自販機の横の植え込みに目が行った。よく見ると、タバコの吸い殻が一つ落ちている。ここは喫煙所でも何でもないのに、誰かがここで吸ったらしい。僕は吸わないから、その気持ちは分からないけど、午後二時の自販機の前に吸い殻が一つ落ちているのは、少しだけ変だと思った。

缶コーヒーを一口飲んで、ふと数日前のことを思い出した。同じ自販機で、お釣りの五十円玉を落として、溝に転がしてしまったことがある。あのときはしゃがんで必死に探したけど、結局見つからなかった。今日はちゃんと受け取れてよかった、と思う。ただ、その五十円玉のことを思い出して、缶コーヒーの味が少しだけ思い出に混ざるような気がした。

まだ半分ほど残っている缶を片手に、僕はゆっくりと歩き出した。

昼前の光が差し込む網戸と、開いたままの窓辺の様子

昼前の網戸、開けっ放しのまま

昼前になって、急に暑くなってきた。窓を開けたら、網戸がそのままになっていた。

昨夜、涼しい風が入るようにと開けたまま寝たのだ。朝のうちは気持ちよかったけれど、今はもう外の空気が熱い。それでも、なぜか閉めるのが惜しくて、しばらく網戸の前で立っていた。

網戸の隅に、小さな蜘蛛の巣が張っている。昨日はなかったはずだ。いつの間に作ったのだろう。蜘蛛の姿は見えないけれど、張りたての巣が朝日できらきらしていた。

そのまま昼食の支度にとりかかった。冷たいそうめんを茹でようと、お湯を沸かす。湯気が立ちのぼるあいだ、網戸から差し込む光が、畳に長い影をつくっている。

そういえば、隣の家の猫が、よく網戸の向こうに来て座っていた。今日はまだ来ていない。暑い日は、どこかで涼んでいるのかもしれない。

そうめんを茹で終えたとき、玄関のチャイムが鳴った。郵便のおじさんが、暑そうに帽子のつばをぬぐいながら、小さな封筒を差し出した。受け取って、そのまま台所に戻る。

封筒を見ると、宛名が僕の字で書いてある。自分で自分に出す手紙を、先週出したのを思い出した。中には、旅先で拾った貝殻が入っている。どこに置こうか考えて、結局、本棚の隙間に挟んだ。

そうめんを食べながら、網戸のこと考えていた。閉めようと思いつつ、まだ開いたまま。暑いけど、風が抜けると、それなりに涼しい。蜘蛛も網戸で暮らしているようだし、今日はこのままでいいか、と思う。

食べ終えて、片づけをする。あの蜘蛛は、明日もいるだろうか。いや、たぶん、いつの間にかいなくなっている。

白いマグカップの持ち手の内側に茶色い線が残っている様子

朝のマグカップ、持ち手の内側に溜まった茶色い線

今朝、コーヒーを淹れようとマグカップを手に取ったら、持ち手の内側に茶色い線が残っていた。昨日の夕方に洗ったはずなのに、なぜかそこだけ落ちていない。

指でこすってみたが、取れない。かといってスポンジを持ち手の中に突っ込むのも面倒で、しばらくそのまま眺めていた。線は細く、持ち手のカーブに沿って半月みたいに弧を描いている。茶色いと言っても、コーヒーの色というより、もう少し薄い。

そういえば、このマグカップは三年前に買ったものだ。当時は白が真っ白で、持ち手の内側なんて気にしたこともなかった。いつからこの線はでき始めたんだろう。毎日使って、毎日洗って、それでも少しずつ染みが積もっていくのは、何だか自分の抜け毛を数えているみたいな気分になる。

台所の引き出しから古い歯ブラシを出してきて、こすってみることにした。でも、歯ブラシの先端が曲がっていて、持ち手の一番奥まで届かない。届かない場所の汚れに限って、なぜか気になる。結局、綿棒に変えてみたら、今度は先が細すぎて、線に沿ってなぞると途中で折れてしまった。

洗面所に予備の綿棒があったはずだ。探しに行こうと思ったけれど、その前に冷めたコーヒーのことを思い出して、結局そのまま飲み始めた。線はまだそこにある。明日もきっとある。それでいいような気もする。

朝の光が台所の隅まで届き始めて、マグカップを置いたままにしていると、その線だけが光って見えた。よく見ると、線の端が少しだけ濃くなっていた。ここから始まったんだな、と分かる気がした。

朝の花屋に並ぶヒマワリの束と、それを眺める男性

朝の花屋、ヒマワリの花言葉を数える

今朝、ゴミ出しのついでにいつもと違う道を通ったら、花屋がもう開いていた。まだ七時過ぎだというのに、シャッターを半分上げて、店先にバケツを並べている。その中にヒマワリがあった。太い茎に大きな花が一つ、どれも同じ方向を向いて、道側に傾いている。

ヒマワリの花言葉って何だったっけ。確か「あなただけを見つめる」とか、そんな感じだったと思う。でも、それだけだと自信がなくて、店の前で立ち止まって考え込んでしまった。ああ、「憧れ」とか「情熱」もあったような気がする。花言葉はたくさんあって、どれが正しいのかわからない。

そういえば、昔、母が花屋で働いていたことがあって、僕が小学生の頃、よく店の裏で宿題をやっていた。母はヒマワリの花言葉を「太陽に向かって咲くから、太陽みたいに明るい人になってほしい」と教えてくれた。あれが花言葉だったのか、母の勝手な解釈だったのかは、今となってはわからない。

結局、僕はヒマワリを買わなかった。値札を見たら一本三百円で、ゴミ出しに来ただけの身には、ちょっと買う気になれなかった。その代わり、隣にあった名前の知らない小さな白い花の値札を見て、「この花は何だろ」と思いながら、そのまま家に帰った。

玄関を入ってから気づいたけど、ゴミ袋をまだ手に持ったままだ。可燃ごみの日は昨日だったはずだ。

夜の縁側で網戸に手を触れる男性

夜の網戸、触れたら緩んでいた

今夜は蒸し暑くて、網戸を閉めたまま扇風機を回していた。ふと桟のあたりに手をやると、枠が少し動く気がした。押すと沈むというより、横にぐらっと遊びがある感じだ。

ランプをつけてよく見ると、右下の角のビスが半回転ほど緩んでいる。網戸に使われるビスにしては細い方で、ドライバーで締めれば直りそうだった。しかしそのとき手元にドライバーがなく、台所の引き出しまで取りに行くのが面倒で、そのまま指でなぞって終わりにした。

代わりに、緩んだ枠を押さえながら窓を開け閉めしてみた。実際には閉まっている網戸を開ける必要はないのに、一度試してみたくなった。やっぱり少し音がする。隣の部屋からは、弟がスマホを見ているらしい小さな笑い声が聞こえていた。

僕は小学校の頃、網戸の張り替えを父がやっているのを見たことがある。古い網を外すときに破れて、新しい網を枠に留めるゴムを専用のローラーで押し込んでいた。そのゴムが余って途切れるところがいつも綺麗にできず、父が何度もやり直していた。今夜の緩みは、そういう張り替えの際にできた可能性もある。

結局、ドライバーは取りに行かなかった。直すのは明日でもいい。そのまま洗面所へ行って歯を磨き、戻ると網戸の枠がまた目に入ったが、もう気にならなかった。

夜の球場で、白いユニフォームを着た人がスタンドに座っている

夜の観戦帰り、負けた球場で思ったこと

今日はナイターの野球観戦。贔屓のチームは負けてしまった。でも、対戦相手を家の者が応援しているから、良しとしよう。

九回裏、最後のバッターが三振した瞬間、歓声が起こった。アウェーのそれだ。家の者は立ち上がって拍手していた。僕は拍手の拍子を間違えた。

帰り道、満員であろう駅へは行かず、バスにしようかと考えた。球場の出口で、負けた側のファンが静かに歩いていく。コンビニの灯りが点在する道を、ゆっくり歩く。

途中、飲みかけのスポーツドリンクを買った。温かった。ベンチに座って飲んでいたら、警備員に声をかけられた。「閉門ですよ」と。空のボトルを捨てて、また歩き出す。

負けた試合の後は、いつもより街が静かに見える。それは気のせいではないのかもしれない。家に着く頃には、家の者と今日の試合の話をするだろう。あの三振のことを。

夜の縁側に止まるアゲハチョウのイラスト

夜の縁側でアゲハチョウ

夜の縁側に、アゲハチョウが一匹止まっていた。網戸を開けようとして手を止める。昼間の暑さがまだ残っていて、縁側の木もほんのり温かい。

その蝶は、羽を閉じたまま微かに動くだけだ。もう飛べないのかもしれない。近づいても逃げない。指を伸ばして、そっと触れてみようかと思ったが、やめた。

ふと思い出すのは、昼間のニュースだ。すねのツボを押すと精神が安定するという話を見た。あのツボの位置、正確には覚えていないけれど、何となく押してみたくなった。夜の縁側で、一人で。

アゲハチョウはまだ動かない。ひょっとしたら、夜の暗さに驚いているのかもしれない。昼間はあんなに暑かったのに、今は風が冷たく感じる。蝶の羽が風で少し揺れる。

僕は縁側に座って、蝶を眺めながら、あのツボの話を思い出していた。あの人は、ツボを押すと動悸が改善すると言っていた。動悸なんて、普段感じないけれど。でも、この静かな夜に、蝶と二人きりだと、心臓の音が聞こえてくる気がする。

蝶は、突然、羽を広げた。そして、ふらふらと飛び立った。縁側の端まで来て、また止まる。僕は、もう一度、そっと息を止めて見守った。

夕暮れの郵便受けに手を伸ばす男の手元

夕暮れの郵便受け、開けたら二通

買い物から戻って、郵便受けを開けた。二通入っていた。

一通は光熱費の明細で、表ににじんだ雨の跡があった。去年の夏もこうだったか、と思い出す。もう一通は見慣れない差出人で、宛名だけ手書きだった。裏を見たが、返信用の宛名もない。

階段を上がる間に、その封筒の紙の厚みを指で確かめた。結婚式の案内にしては薄いし、はがきにしては重い。

部屋に入って、電気を点ける前に、窓の外がまだ明るいことに気づいた。七時半を過ぎているのに、空はすっかり曇っていたわりには白っぽい。雨が降りそうで降らない、肌にまとわりつく一日だった。

封を切ろうとして、やめた。先に冷たい麦茶を飲んでからにしよう。そう思ったのは、変に期待している自分がいるのを認めたくなかったからだ。

麦茶をグラスに注ぎ、そのまま立って飲んだ。窓際のハンガーに掛けたままのシャツが、風もないのにゆれている気がした。

二口目を飲んでから、封筒に戻った。切れ目を入れると、中から折りたたまれた便箋が一枚出てきた。読む前に、まず便箋の裏を見た。そこには何も書かれていなかった。表に戻ると、三行だけの短い文があった。

それを読んで、麦茶を一口飲んだ。知らない人の名前だったが、書いてあることは単純な連絡事項で、自分の宛て違いかどうかも分からないまま読み終えた。

便箋を封筒に戻して、机の隅に置いた。光熱費の明細だけは、明日の朝にでも見よう。麦茶がまだ半分残っている。

夕方の自転車のタイヤに空気入れを差し込む手元のイラスト

夕方の自転車、タイヤの空気を足した

夕方、五時過ぎにベランダへ出たら、日差しはまだ強いのに、風だけは少し涼しかった。明日は小雨が降るらしいと、スマホの天気予報が言っていた。

洗濯物を畳んでいるときに、タイヤの空気が抜けていることを思い出した。通勤に使っているママチャリの後ろ輪を触ってみる。指で押すと、少し沈む程度だ。家に空気入れはあったはずだ。

物置をあさると、古い足踏み式の空気入れが出てきた。先端をバルブに押し込んで、足を踏み込むと、空気が入る音が、しゃっ、しゃっ、というより、ぷしゅー、という。

しばらく足を踏んでいたら、首のあたりに汗をかいてきた。空気入れを外して、タイヤを押してみる。まだ柔らかい気がする。もう一度、差し込み直して、あと十回くらい踏んだ。

そういえば、この空気入れは、父が使っていたものだ。青い筐体に、錆のような灰色の斑点ができている。子どもの頃に、空気を入れるたびに金属のクランクが擦れる音がした。今は、その音がしない。逆に、もう少し静かになったような。

空気入れを足で踏みながら、タイヤの空気で思い出すのは、いつも決まってこのくらいの時間帯だ。何の用事もないのに、玄関の前で空気を足している。

汗が額ににじんできた。昼間の気温が高かったからだろう。タイヤを指で押しても、じゅうぶん硬くなっている。

空気入れを物置に片付けた。でも、まだ空気が足りないような気もした。明日の朝、乗るときに再び確認すればいい。

午後の日差しが差し込む部屋の隅で、首を少し傾けて止まっている扇風機

午後の扇風機、首振りの止まる角度

今日は8月の最初の土曜日。午後3時を過ぎたあたりから、部屋の中がじわじわと暑くなってきた。昨日は通り雨があって少し涼しかったのに、今日は朝から日差しが強く、窓の外ではセミが鳴いている。

僕はダイニングテーブルで読みかけの本を広げていたが、背中に汗をかいてきた。そこで、押し入れの横に置いてある扇風機を出してスイッチを入れた。この扇風機はもう10年近く使っていて、首を振らせるとジージーと音がする。

最初は首を振っていたのだが、しばらくするといつの間にか止まっていた。止まったときに首は右を向いていて、ちょうど窓の方向を指している。手で少し回して向きを変えようとしたが、重くて動かなかった。いつもと同じだ。この扇風機は、止まると必ず右を向く。左に動かそうとすると、モーターが抵抗しているみたいに硬い。

首振りの止まる角度が毎回同じだということは、たぶん中のギアがすり減っているせいだと思う。でも、正確には分からない。そろそろ買い替え時なのかもしれないが、まだ風は出る。昔、実家にあった扇風機も同じくせがあって、父が「こいつは右が好きだから」と言っていたのを思い出した。

そのまましばらく、扇風機の風に当たっていた。風が当たっていると、どこかでかき氷の機械の音が聞こえた気がした。しかし外に出ると、かき氷屋の車は来ておらず、ただセミの声が強くなっているだけだった。

再びテーブルに戻り、本を開いた。扇風機はなおも右を向いたまま、風を送り続けている。

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