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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

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夜の台所でスポンジを握る手元、蛍光灯の光と水滴

夜の台所、濡れたスポンジの重み

シンクの縁に置いてあったスポンジを取り上げた瞬間、予想より重かった。親指と人差し指で挟んだだけでは持ち上がらず、中指も添えて握り直した。昨日の夜から水を含んだままだったらしい。蛍光灯の白い光がスポンジの表面の小さな穴を照らしていた。

蛇口をひねると、最初に温かい水が出てきた。配管に残っていた分だろうか、それとも外気温のせいか。スポンジを水流の下に持っていくと、含んでいた水が押し出されて薄くなった。指の間から古い水が染み出してきて、洗剤の匂いと混じった。人差し指で表面を押すと、新しい水が吸い込まれていく音がした。

食器用洗剤のボトルを左手で持ち上げたが、思ったより軽い。残量を確かめようと傾けると、中で液体が偏る感触が伝わってきた。スポンジの上に垂らすと、緑色の液体が染み込む前に一瞬表面に留まった。

皿を一枚手に取った。冷蔵庫の低い唸り声が止まり、急に静かになった。スポンジを皿の表面に当てて円を描き始めると、すぐに泡が立った。親指の腹で皿の縁を支えながら、人差し指と中指でスポンジを動かす。泡が指の第二関節まで這い上がってきた。

隣の部屋から扇風機の首振り音が聞こえてきた。皿をすすいでいる途中で、スポンジから垂れた泡が素足の甲に落ちた。冷たさが一瞬走って、すぐに温かくなった。水を止めようと蛇口に手を伸ばしかけたが、まだ泡が流し台の隅に残っているのが見えた。スポンジを絞る手を止めて、そのまま立っていた。窓の外から遠くの車の音が聞こえてきて、また消えた。

夜の台所の流し台と排水口の金属網

台所の排水口、夜の金属網

排水口の縁

流しの中に手を伸ばしていた。食器を洗い終えて、排水口の金属網を持ち上げようとして、人差し指の先がぬめりに触れた。

網の縁を親指と中指で摘んで持ち上げると、裏側に張り付いていた野菜くずがぽとりと落ちた。キャベツの芯だったか、それとも何か別のものか。網目に水滴がいくつもついていて、蛍光灯の光を反射していた。

金属の温度

指先に残った金属の冷たさが、手のひらまで這い上がってきた。網を三角コーナーの上で振って、水を切ろうとしたが、途中でやめた。猫が廊下を歩く音がした。

もう一度排水口を覗き込むと、黒いゴムのパッキンが見えた。その隙間に、さっきまで気づかなかった米粒がひとつ挟まっていた。爪楊枝を取りに行こうとして、引き出しに手をかけたところで、隣の部屋から物音がした。同居人がまだ起きているらしい。

水滴の行方

金属網をそのまま流しの端に置いた。網目から垂れた水が、ステンレスの上に小さな水たまりを作っていく。それを見ているうちに、去年の夏、実家の台所で母が同じように排水口を掃除していた場面が浮かんだ。あの時は昼間で、窓から入る光が違っていた。

蛇口から水を少し出して、指先のぬめりを流した。水は冷たすぎず、ぬるすぎず。手を拭こうとしてタオルに手を伸ばしかけ、そのまま止まった。濡れた指先が、夜の空気に触れて少しずつ乾いていく。排水口からかすかに、水が流れる音がまだしていた。

夜の満員電車内、スマホの画面光と乗客の肩

振替輸送の車内、夜の肩と画面

駅の改札を出たところで振替輸送の案内を受け取った。紙の端が湿っていた。折り目をつけずにポケットへ入れて、別の路線のホームへ向かう。階段の手すりが妙に冷たかった。

車内に乗り込むと、すでに人の壁ができていた。ドアの脇に立って、肩が隣の人のリュックに当たる。布地の硬さと、その下の何かの角を感じる。足を少しずらすと、今度は後ろの人の鞄が腰に触れた。

つり革を右手で掴もうとして、届かなかった。左手に持ち替えて、ようやく指先が届く。人差し指と中指だけで輪を挟んで、体重を預けられない。電車が動き出すと、慣性で体が後ろに引かれた。

目の前でスマホの画面が光っている。青白い光が顔の下半分を照らしていた。指が画面を上下に動かすたび、光の強さが変わる。隣でも別の画面が動いていた。ゲームの音は聞こえないが、親指の速い動きでそれとわかる。

窓ガラスに自分の顔が映っていた。暗い外の景色に重なって、疲れた目元が見える。視線を画面に戻すと、今度は肩越しに別のスマホが見えた。メッセージアプリの既読マークが並んでいる。

車内アナウンスが流れて、次の駅名を告げた。ドアが開くと、一瞬だけ風が入ってきた。生ぬるい空気だった。また人が乗り込んできて、さっきより圧迫感が増す。つり革から手を離して、今度は手すりを探した。金属の冷たさが、掌に心地よかった。

前の人が体勢を変えて、リュックの位置がずれた。肩に食い込んでいた角が外れて、急に楽になる。でもすぐに別の荷物が当たってきた。今度は柔らかい布の塊だった。電車の揺れに合わせて、その圧力が強くなったり弱くなったりする。窓の外を流れる光の列を見ながら、まだ半分も進んでいない

濡れた歩道の側溝と鉄格子

側溝の鉄格子、夕方の雨水

歩道の端で立ち止まった。側溝の鉄格子が黒く濡れている。格子の隙間から、下を流れる水が見えた。薄茶色に濁っている。

しゃがんで格子に人差し指を当てた。鉄の表面がひんやりと冷たい。指を横にずらすと、錆びた部分のざらつきが指紋に引っかかった。格子の一本一本の間隔は、親指がちょうど入るくらい。試しに親指を差し込んでみると、第一関節のあたりまでしか入らなかった。引き抜くときに、爪の先に水滴がついた。

格子の下で水音がする。ちょろちょろという音と、時々ごぼっという太い音が混ざる。顔を近づけると、下水の匂いとアスファルトの濡れた匂いがした。でも思ったほど嫌な匂いではなく、土っぽい匂いも混じっていた。雨上がりの匂いかもしれないし、側溝に溜まった落ち葉の匂いかもしれない。

立ち上がろうとして、膝に手をついた。ズボンの膝のところが、少し湿っている。いつの間にか濡れた地面についていたらしい。手のひらで払ったが、湿り気は取れなかった。

そのまま格子を見下ろしている。水の流れる音が続いている。隣のビルから、換気扇の低い音が聞こえてきた。空はまだ明るいが、建物の陰になった部分はもう薄暗い。格子の角に、小さな葉っぱが一枚引っかかっていた。緑色だが、端が少し茶色くなっている。指でつまもうとしたが、届かなかった。

また膝を曲げかけて、やめた。ズボンがこれ以上濡れるのも面倒だ。格子の上に、新しい水滴が一つ落ちてきた。どこから落ちたのか見上げたが、わからなかった。

夕方の歩道橋の手すりと階段

歩道橋の手すり、夕方の熱

歩道橋の階段を上がりかけて、右手を手すりに置いた。金属の表面がまだ熱を持っていて、掌に張り付くような感触があった。指を少しずらすと、別の箇所も同じくらいの温度で、親指の腹で押してみても熱は変わらなかった。

階段を降りてくる人の足音が近づいて、遠ざかった。コンビニの袋を提げた人、傘を持った人、イヤホンをした人。みんな下を向いて歩いていた。

手すりから手を離して、もう一度触れた。今度は指先だけで、軽く。やはり熱い。昼間の日差しがまだ残っているのか、それとも排気ガスの熱なのか。下の車道から、アイドリングの音と焦げたような匂いが上がってきた。

階段の途中で立ち止まった。商店街の入り口が見えて、シャッターを下ろし始めている店が二軒あった。隣の八百屋はまだ明るくて、店先のトマトが赤く光っていた。

手すりをもう一度握った。今度は五本の指全部で、しっかりと。金属の継ぎ目に中指が当たって、そこだけ温度が違った。少し冷たい。指を継ぎ目に沿って動かすと、ざらついた感触があった。錆びているのかもしれない。

階段を一段降りようとして、やめた。手すりを握ったまま、そのまま立っていた。下から上がってくる風に、ラーメン屋の匂いが混じった。手のひらがじんわりと熱を吸い込んでいく感覚が、まだ続いていた。

透明なアクリル板の下から見上げた構図、折りたたまれた猫の前足のシルエット

透明なキャットステップ、折りたたまれた前足

スマートフォンを持ったまま立っていた。画面に猫の写真が並んでいて、指でスクロールを二度止めた。透明な板の下から撮った角度で、座っている猫の下半分だけが写っている。

前足がどこへ入っているのか、普段は見えない。折りたたんで体の下に収めていると言われるが、実際にどう曲がっているかは確かめたことがなかった。画面の中では透明な板越しに、毛と肉球の境目が薄く浮かんでいる。

拡大して見ようとして、指が滑った。別の写真に切り替わり、そのまま戻さなかった。窓の外で雨が降る音が少し大きくなっている。湿った空気が入ってきていて、スマートフォンの縁がわずかに冷たい。

もう一度画面を下へ動かして、同じ投稿を探した。途中で広告が挟まり、指を止めて画面を見たまま数秒待った。戻ってきたのは似た構図の別の猫で、毛の色が違う。前足の位置も少しずれている。元の写真は見つからないまま、アプリを閉じた。

窓辺の机に伏せたスマートフォンと湯呑み

正午のニュース、横浜の中華食堂

正午過ぎの部屋、西向きの窓の前に立っている。日差しが窓枠を越えて床に長い筋を作る。スマートフォンの画面が逆光で見えにくい。

左手を額の上にかざす。それでもまだまぶしい。親指でリストをスクロールする。ニュースアプリの見出しが順に通り過ぎる。一つ目は別の記事、二つ目もまた別のもの、三つ目に「崎陽軒 中華食堂 リニューアル」とある。

その文字で指が止まる。横浜の駅地下だ。何年か前に、確か夏の終わり、通りがかりに入った。カウンターに座った。冷やし中華を注文した。周りの客の話し声、厨房から聞こえる中華鍋の音。酢の匂いが冷えた空気に混じっていた。レンゲの縁が厚く、口に当たる感触を覚えている。

そんなことを断片的に思い出す。記事の本文は読まない。最初の段落だけ目を通す。開業の日付が簡単に書かれている。それ以上はスクロールしない。画面を暗くして、スマートフォンを机の隅に伏せて置く。机の木目が目に入る。その木目に沿って指を滑らせる。埃が一つ、指に付く。

エアコンの風が首筋を冷やす。窓の外、アスファルトの上の陽炎が視界の端で揺れている。湯呑みを持ち上げる。茶はもう完全に冷えている。一口含んで、そのまま窓の外を見続ける。何も考えていない。手にした湯呑みの温もりが消えている。机の上に置いたままのスマートフォン、画面がふと光る。通知が来たようだ。しかし、それを手に取る気にはならない。湯呑みを両手で包む。冷えた陶器の感触が指先に伝わる。

階段の隅に落ちた青じその葉と葉脈の細部

階段の隅、青じその葉脈

階段を降りる途中、コンクリートの隅に青じその葉が一枚落ちていた。縁が少し破れている。拾い上げると指先に湿った感触が残り、裏側に土の粒が二つついていた。

葉脈を確かめようと光に透かしたが、思ったより筋がはっきり見えなかった。中央の太い筋から細い線が斜めに広がっている。指の腹で表面をなぞると、わずかな凹凸があった。葉の縁は鋸歯状になっていて、破れた部分だけ色が濃く見えた。

匂いを嗅ぐと、青じそ特有の香りがした。それほど強くはない。もう一度葉脈の筋を指でなぞり、縁の破れた部分を親指で押さえた。押さえると葉が少し丸まり、また戻った。

階段の脇に鉢植えがあったことを思い出したが、そこから落ちたのかどうかはわからなかった。葉を持ったまま階段を一段降り、手のひらで葉の重さを確かめた。ほとんど重さは感じなかった。

夏の午前中、街角の自動販売機の取り出し口に置かれた缶

自販機の缶、取り出し口の隅と温度

自販機の取り出し口に手を伸ばした時、缶の表面が思ったより冷たかった。指先で触れて、すぐに手のひら全体で包む。金属の冷たさが皮膚に張りついて、数秒そのまま持っていた。

取り出し口の隅に水が溜まっていた。透明で、端の方に少しだけ。缶を持ち上げる時に指が触れて、冷たさが二種類になった。缶本体の冷たさと、水の冷たさ。どちらも同じ温度のはずだが、濡れた方が強く感じる。

缶を引き出してから、取り出し口をもう一度見た。水滴が三つ、金属の縁に残っている。日が当たっていない部分で、光らなかった。自販機の横を通る人の足音が二つ、三つ聞こえて、遠ざかっていく。

缶を持ったまま、しばらくその場に立っていた。手の中で缶が少しずつ温まり始めたような気がしたが、確かめるために握り直すと、まだ十分に冷たかった。

水差しの縁に這う朝顔の蔓と葉

朝顔の蔓、水差しの縁

庭の朝顔に水をやろうとして、水差しを持ち上げたら蔓が縁に絡んでいた。緑色の細い茎が金属の縁を半周ほど這って、先端は空中で止まっている。

鉢のそばに立てた支柱には届いていない。水差しを少し傾けると、蔓が揺れて葉が一枚こちらを向いた。葉の表面には細かい皺があって、触ると少しざらついている。

花は一つだけ咲いていて、薄い青だった。鉢についていた栽培タグに「はかない恋」と書かれていたのを思い出した。誰が決めたのかは知らない。

水を注ぐと土が黒くなって、根元の小石がいくつか動いた。蔓はそのまま水差しの縁に残っている。外そうとしたが、巻きついた部分が硬くて簡単には取れなかった。

もう一度引っ張ると茎がしなって、葉が二枚重なった。水差しを置いて、支柱の向きを少しずらした。蔓の先がどこへ伸びるかは分からない。手についた土を払って、しばらくそこに立っていた。

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