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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

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お盆休みの朝、空いた電車の向かいで乗客同士が目を合わせる風景

座席の間隔が広い朝、向かいの人と目が合った

ドアが閉まってから、今日は座席の数を数えそうになった。午前六時四十八分の電車なのに、いつもなら立っている人の肩が並ぶ場所まで空いている。お盆休みの影響だろうと考えたが、考えるまでもなく車内の静けさが答えを出していた。

僕は端の席に座り、向かい側を見た。いつも同じ車両で見かける男性が、二つ先の席にいる。顔を知っているだけで、名前も勤め先も知らない。それでも、平日の朝に同じ駅から乗り、同じあたりで降りる人なので、今日は妙に欠席者の少ない集まりへ来たような気分になった。

車内が空いているせいで、その人の靴のつま先や、少し折れたシャツの襟まで見えた。普段なら誰かの背中に隠れている部分ばかり覚えてしまい、肝心の顔は後回しになった。僕が見すぎたのか、相手が先に見ていたのかは分からないが、そこで目が合った。

二人とも一度だけ視線を外し、すぐに戻した。声をかけるほどではないので、口元だけで苦笑いを交わした。たぶん同じように、いつもの混み方を期待して来たわけではない。僕は次の駅名が表示される窓の上ではなく、向かいの空いた席を見ながら、出勤用の表情に戻った。

夜の部屋でニュース画面に映る魚のシャボン玉スティック

110円の魚が、夜のニュース画面で泳いでいた

ニュースの一覧を指で流していたら、魚のマスコットつきシャボン玉スティックという文字で止まった。時刻は20時40分、窓の外はまだ暑さが残っていて、室温の表示は27度だった。事件や大きな話題を探していたわけではないのに、110円という数字と魚の顔の組み合わせだけが、画面の端で妙に目に残った。

記事には、平成の水族館グッズみたいでかわいい、という趣旨の紹介があった。僕の中の平成の水族館は、入口近くの売店に並んだ小さなキーホルダーや、少し厚い透明プラスチックの置き物でできている。魚の種類を覚えるより、値札の下で同じ向きを向いていた商品を眺めていた時間のほうを覚えている。シャボン玉なのに、遊び道具より先に売店の棚を思い出した。

画面を閉じる前に、商品写真の魚がどちらを向いているかを確認した。右向きだったので、僕が普段描く魚とは反対だった。別に絵を描く予定もないのに、向きだけ確かめてから、もう一度ニュース一覧へ戻った。110円なら試してみてもいいと思ったが、夜に買う理由を考え始めると、近所の店でその棚を探している自分まで浮かんできて、そこで指が止まった。

夜の窓辺で少し浮いた網戸の留め具

夜の窓辺で網戸の留め具が少し浮いていた

窓を閉めようとして、網戸の留め具だけが少し浮いているのに気づいた。指先で押せば戻りそうな高さなのに、先に窓の取っ手を持った手を離した。こういう小さい部品は、触る順番を間違えると別のところまでずれそうで、僕は必要以上に慎重になる。

部屋の中は冷房の風が弱く回っていて、窓の外から車の音が一台だけ通った。網戸を動かすと、留め具の金属が枠に当たって小さく鳴った。浮いている原因を探そうとして、ねじの頭を覗き込んだが、暗くてよく見えない。スマートフォンの明かりを向けるほどでもないと思い、指の腹で左右に揺すってみた。動く幅はほんの少しだった。

そのとき、窓枠の下に細いほこりの筋があるのが目に入り、留め具よりそちらを先に拭きたくなった。ティッシュを一枚折って端をなぞると、灰色の粉が筋に沿って集まった。網戸を閉め直し、浮いた留め具を押すと、今度は乾いた音がして枠に収まった。念のため一度だけ窓を開けかけたところで、手を止めた。

夕方の川の浅瀬にある砂の線

浅瀬の砂の線を、今日はまたがなかった

川から上がろうとして、片足を砂の上に出したところで止まった。浅瀬の水際に、細い線が一本だけ横に伸びていた。誰かが棒で引いたようにも見えるし、水が引くときに残した跡にも見える。線の手前には小さな丸い石が三つ並び、向こう側の砂は少しだけ湿っていた。

またいでしまえば何も起きない幅だったのに、僕は足を戻した。線を消すのが嫌だったわけではない。むしろ、靴底で踏んだらどのくらい崩れるのか確かめたくなった。その確認を始めると、帰るまでに砂の模様を全部試すことになりそうで、やめておいた。

川面では、浅い流れが石の横だけ白くなっていた。音もそこだけ少し高く、線より目立つはずなのに、僕は水の速さではなく、線の端がどこで途切れているかを見ていた。右端は草の影に入り、左端は水に触れてぼやけている。

立ち上がると、足の裏に砂が張りついていた。岸へ向かう途中、さっきの三つの石を一つずつ避けたが、最後の一つだけは避ける方向を決められず、少し横にずれて歩いた。

夏の夕方のバス停と時刻表

バス停の時刻表を一段だけ見上げた

時刻表の下から二段目だけを見上げて、僕は首を止めた。17時15分のバス停は、昼の熱をまだ舗装に残していて、日陰に入っても靴の裏からぬるさが返ってくる。次の便を知りたくて立ったはずなのに、目は出発時刻の数字より、紙の右端にできた小さな折れ目を追っていた。

その折れ目は上向きに三角形になっていて、誰かが急いで貼り直した跡のようにも見えた。時刻表は透明な板の奥に収まっているから、触れることはできない。僕は意味もなく、板の左下にたまった細い砂を靴先で一度だけなぞった。

道路では車が一台通り、停留所の金属製の柱が短く鳴った。向かいの信号が青になったので、そちらを見ているうちに、さっきまで読めていた行が分からなくなった。上から数えるか、下から数えるかを決めていなかったせいで、同じ時刻を二度確認してしまう。

結局、次の便までの分数は覚えないまま、僕は一段だけ視線を下げた。そこには休日の運行について細い文字が並んでいたが、読む気になれず、時刻表を囲う黒い枠の角だけを見ていた。背後で自転車のベルが鳴り、僕は少し横へ寄って、まだ来ていない道路の方を向いた。

八月の商店街の角で折り直されたレシート

商店街の角で、レシートを折り直した

レシートを財布に入れようとして、商店街の角で一度ひらいた。買ったものは麦茶と電池だけなのに、紙は財布の幅より少し長く、端が三ミリほど出てしまう。八月の遅い午前で、アーケードの外から入る光が歩道のタイルに白く落ちていた。

最初は二つ折りで押し込んだが、電池の箱に当たって財布が膨らむ。三つ折りにすると今度はレシートの店名が内側へ隠れた。必要になって見返す予定などないのに、買った店くらいは読める向きにしておきたいと思い、角を合わせて折り直した。折り目の少し下に、レジの人がつけた小さな黒い点も見えた。

通りを自転車が一台抜け、僕は邪魔にならないよう柱の脇へ寄った。財布を閉じてから、さっき買った電池の向きまで確認した。袋の中で横になっていたので立て直し、結局またレシートがずれた。もう一度だけ折れば済む話なのに、指先で紙をなぞる順番を変えると、うまく収まる気がして試していた。

夏の朝のベランダから見える向日葵

向日葵の花言葉「あこがれ」を見ていた

向日葵の花を見上げたまま、僕はスマートフォンの画面を消した。午前九時二十二分、八月の空はよく晴れていて、ベランダの手すりがもう少し熱くなり始めている。花の中心は思ったより濃く、黄色い花びらには一枚だけ外側へ折れたものがあった。

今日の花言葉を調べるつもりで画面を開いたのに、先に「あこがれ」という文字が目に入った。向日葵にはいくつかの花言葉があるらしいが、僕は一番最初に出てきた言葉だけを覚えてしまう。後から別の意味を見つけると、最初のものを訂正したくなるのに、今回はそのままにした。

花は隣の建物の塀際にあり、こちらへ向いているようで、実際には少し南東へ傾いている。僕は首を左右に動かして、正面から見えているかを何度も確かめた。向日葵のためというより、自分の立ち位置を決めたいだけだったと思う。足元には、昨日取り込まなかった洗濯ばさみが二つ転がっていた。

写真を撮ろうとして、画面の端に電線が入るのでやめた。きれいに切り取れば花だけ残せるけれど、塀も電線もない向日葵は、僕が見たものとは少し違う。スマートフォンを下げると、花びらの折れた一枚がまた目に入り、そこから視線を外せないまま立っていた。

夏の朝に咲く百日紅を見上げる道ばたの風景

百日紅の花言葉「雄弁」を見上げた

百日紅の枝を見上げたところで、足が止まった。朝の七時五分、まだ道の熱はそれほどでもないのに、湿った空気がシャツの背中に張りついている。昨日まで花の数だけを見ていた木に、今日は一つずつの花びらの縮れが見えた。

百日紅の花言葉は「雄弁」だと、以前どこかで読んだ。たしかに、枝先にまとまった桃色の花は遠くからでもよく目立つ。ただ、僕には話し上手というより、同じ場所で何度も身ぶりを繰り返している人のように見える。声は聞こえないのに、見上げるたび内容が少し変わる。

幹のそばには、昨日の風で落ちたらしい花が二つあった。拾うほどではないと思いながら、靴先で踏まない位置へ寄せた。花びらを数えようとして三枚目でやめ、代わりに枝の先端が隣の電柱よりどちらへ傾いているかを確認していた。自分でも、見る場所が細かすぎると思う。

通りの向こうで自転車のブレーキが鳴り、僕は一度そちらを見た。戻ると、百日紅の花はさっきと同じようで、まとまりの中に白っぽい一輪だけが混じっていた。花言葉を思い出したのはそのあとで、雄弁という言葉を木に当てはめるより、僕が黙って見ていた時間のほうを覚えている。

夜の玄関に置かれた不在票と鍵

夜の玄関で不在票を裏返した

玄関の床から不在票を拾い上げた。午後に出かけた覚えはないのに、配達の人とはすれ違ったらしい。時刻を見ると二十時五十五分で、外はもう真っ暗だった。湿った八月の空気が、開けたドアの隙間から少しだけ入ってきた。

紙は三つ折りになっていて、端に靴の跡のような灰色の汚れがついていた。僕は再配達の受付番号を確認する前に、なぜか不在票を裏返した。裏面には何も書かれていない。ただ、印刷のない白い面に、折り目の影だけが斜めに残っている。

そのまま電話をかけるつもりだったが、鍵を置くための小皿が目に入った。昨日から小銭が二枚と、使い終えた電池が一つ入っている。電池を捨てようとして、玄関にゴミ箱がないことに気づき、いったん廊下の端へ持っていった。持ったまま戻ると、不在票の角が少し浮いていた。

僕は紙を押さえてから、スマートフォンに番号を打ち込んだ。明日の午前中に指定できる欄があったので、そこを選んだが、荷物の中身は思い出せなかった。注文履歴を開けば分かるのに、画面を暗くして、不在票を小皿の下へ差し込んだ。

夜の台所に置かれた麦茶の容器

夜の台所で、麦茶の容器を少し傾けた

冷蔵庫から麦茶の容器を出したとき、僕はすぐにはコップへ注がず、底のほうを少しだけ持ち上げた。時刻は二十時四十二分で、窓の外は晴れているらしいのに、台所には昼の暑さがまだ残っていた。容器の中身は半分より少し多い。傾けると、底に沈んでいた細かな茶色い粒が一緒に動いた。

粒が浮いたままになるのかと思って、いったん水平に戻し、三秒待った。三秒という数字に意味はない。ただ、いつも僕はこういうところで妙に待つ。コップを持ったまま、冷蔵庫の扉に貼った買い物メモの端がめくれているのも見えた。牛乳の文字だけが途中で切れていて、明日買うのか今日だったのか分からない。

もう一度容器を傾けると、今度は粒が底の隅に細く集まった。麦茶を振るつもりはなかったので、手首を動かさないようにして注いだが、最初の一杯は思ったより濃い色になった。コップの縁に小さな泡が二つ残り、僕はそれを指で消そうとして、指では触れないほうがいいと途中でやめた。

容器を冷蔵庫へ戻す前に、蓋が斜めになっていないかだけ確認した。閉まっているのに、白い蓋の取っ手が正面から少しずれている。直そうとして回したら、今度は容器全体が滑り、底が棚に軽く当たった。音を聞いてから、買い物メモの牛乳を明日の欄へ移すため、ペンを探している。

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