
渓谷の水音に、足を置く場所を迷った
靴底が小石を踏む前に、渓谷の水音が聞こえた。18時20分、八月の雨は細くなっていたが、岩の間を抜ける音だけは昼より近く感じる。僕は一度、足を止めた。止まったせいで聞こえたのか、先に聞こえていたから止まったのか、そこはもう分からない。
足元には濡れた小石がいくつもあり、どれも似た色をしていた。水に丸められた形だと思いながら、僕は右足を置く場所を決めきれず、靴の先だけを少し浮かせた。流れの音は一定ではなく、低く続いたあと、岩の裏で急に細くなる。そのたびに、次に聞こえる音を待つような格好になった。
少し進むと、斜面から落ちた葉が水際で引っかかっていた。葉の端だけが水に浸かり、揺れるたびに小さな輪が広がっている。僕は小石よりそちらを長く見てしまい、さっき聞いた水音の方向を忘れかけた。渓谷は近い音と遠い音が混ざるので、耳の置き場所まで迷う。
結局、平らそうな石を選んだ。踏んだ瞬間に靴の中で足が少し滑り、僕は体を戻すために腕を開いた。雨の匂いより、濡れた石の冷たさが先に残った。次の一歩では、音を聞こうとして足元を見ないようにしたが、また小石の形が目に入った。








