
夕方の草原、虫の音が途切れる瞬間
今日は午後からずっと曇りだった。夕方になって少し風が出てきて、草のにおいが混ざった空気が流れてくる。あぜ道を歩いていると、あちこちから虫の音が聞こえる。コオロギなのか、ほかの虫なのか、よく分からない。
何の気なしに足を止めたら、近くの音が全部止まった。歩くのをやめると、虫たちは僕の存在に気づいたらしい。でも、五十メートル先の草むらからは、まだ音が聞こえている。距離によって反応が違うんだなと思って、しばらくそのまま立っていた。
日が落ちる前の光で、草の先がうっすら明るく見える。雲が厚くて、空の色はあまり変わらない。暑さはまだ残っているけど、風が吹くたびに少しだけ涼しい。
そういえば、子ども時代に同じような場所で虫を捕まえようとして、網も持たずに手で草をかき分けたことを思い出した。捕まえたのは、何の虫だったか覚えていない。ただ、指先に触れた感触だけが残っている。
しばらくすると、音が少しずつ戻ってきた。最初は遠く、次に近く。僕が動かないことを確認したみたいに、あちこちから鳴き出す。でも、さっきまで鳴いていた場所の一つだけは、ずっと静かなままだった。あの虫はどこへ行ったんだろう。別の場所に移ったのか、それとももう鳴くのをやめたのか。
風がもう一度吹いて、草がざわっと揺れた。音は戻ってきたけど、あの一箇所だけは、最後まで鳴き直すことはなかった。








