Blog

思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

投稿日が新しい順に表示しています。

朝の細い雨が降る窓辺に置かれたニュース画面のスマートフォン

千葉大雨速報を閉じる指が、雨の音で止まった

「千葉大雨速報」の画面を閉じようとして、指先が画面の端で止まった。特別警報から危険警報や警報などに切り替わった、という見出しを読んだ直後だった。閉じるための小さな印は見えているのに、そこへ触れる動作だけが急に雑に思えた。

窓の外では、東京の朝の細い雨が続いている。昨日から雨音を聞いているせいか、記事の中の線状降水帯という言葉より、ガラスに当たる音のほうが近く感じられた。千葉の状況を見ている僕の部屋まで同じ雨が来ているわけではないのに、音だけは簡単に境目を越えてくる。

画面を少し下へ動かすと、上空から撮影した映像の見出しが現れた。映像を再生するつもりはなかったが、再生ボタンの三角形を親指で一度なぞった。ニュースを知りたいのか、知ったあとに閉じる理由を探しているのか、自分でも分からない。こういうとき僕は、必要な情報より画面の余白を長く見てしまう。

8時45分になっても指は閉じる印へ戻らず、被害の続報がないかをもう一度だけ確かめた。警報の切り替えは安心そのものではないと分かっている。それでも見出しが更新されるたび、読む側は何かできるような気分になって、結局は指を止めたまま雨の音を聞いている。

雨に濡れた朝顔の鉢と落ちた花びら

朝顔の花言葉を、花の向きより後に読んだ

朝顔の鉢を見たとき、花は僕のいる方ではなく、少し外側へ向いていた。雨の細かい粒が葉の縁に並び、開いた花びらの一枚だけが重そうに下がっている。水をやるか迷って、じょうろを持ったまま、まず鉢の土を指で触った。昨日から濡れているので、今日は足さないことにした。

花の向きを直せるわけでもないのに、鉢を数センチだけ回してみた。茎が絡んでいるので、これ以上動かすと別の葉を傷めそうだった。元に戻すほどでもなく、僕が見やすい角度になっただけで手を離した。こういう中途半端な調整は、あとで自分でも理由を思い出せない。

スマートフォンで今日の花として朝顔を開き、朝顔の花言葉を読んだ。最初に見たのは言葉ではなく、画面の上に残った雨粒だった。袖で拭くと、文字が急に近くなった。内容を覚えようとして一度戻り、もう一度開いたけれど、さっき花が向いていた方向のほうがまだ気になっている。

鉢の横には、落ちた花びらが一枚だけあり、拾う前に裏返してみた。表より裏の方が濃く見えたので、捨てる場所を少し迷った。結局、葉に載せるとまた濡れそうで、土の端へ置いた。スマートフォンを閉じたあとも、花言葉の最後の単語だけが曖昧なまま残っている。

雨の夜の台所で冷凍庫から製氷皿を取り出す小さな情景

製氷皿の角に、指を置いたまま

冷凍庫から製氷皿を引き出したところで、僕の指は右手前の角に置かれたままになった。水を入れすぎた覚えはないのに、その角だけ氷が薄く盛り上がり、白く曇っている。引けばすぐ済むのに、指先を離す前に、皿がどちらへ傾いているのかを確かめたくなった。

雨の夜の台所は湿っていて、冷凍庫の扉を開けた隙間から冷気が膝へ落ちてくる。製氷皿を少し持ち上げ、角を押してみると、氷は動かず、代わりに皿の薄い部分だけがきしんだ。僕は一度手を止め、氷ではなく、角の小さなへこみを見ていた。前からあった傷なのか、今日できたものなのか分からない。

取り出したかったのは一個だけだったので、反対側から軽くねじればよかった。けれど、ねじる方向を決めるために、空いた列を二つ数えた。数え終わってから、そんな確認は必要なかったと思い、少しだけ笑った。冷凍庫の奥で別の氷が触れ合う音がして、指先の冷たさに気づいた。

結局、角を押さえたまま製氷皿を水平に戻し、手前の一個を外した。氷を口に入れるつもりで持ち上げたが、角のへこみが気になって、皿をすぐには戻せなかった。扉の警告音が一度鳴り、僕はようやく指を離した。

夜の雨が降る家の台所で表示が点灯した電子レンジ

電子レンジの時計を、直す前に一度だけ見た

電子レンジの時計が、また少しずれている。夕食のあと、夜の雨の音を聞きながら台所の前を通ったとき、黒い表示の数字だけが妙に目に入った。壊れているわけではないし、温める機能にも困っていない。それでも、表示が正しくないままなのが引っかかった。

僕はすぐにボタンへ手を伸ばさず、まず時計の数字を一度だけ見た。直す前に確認する意味はないのに、分の並びを読み直してしまう。電子レンジの時計は、家の中でいちばん近くにある時計なのに、いちばん信用していない時計でもある。

操作パネルの時計ボタンに指を置いた。雨が窓を細かく叩き、表示の明かりが濡れた窓ガラスの反射に重なっている。数字を合わせる途中で、時の欄を先に押すのか、分の欄を先に押すのか分からなくなり、僕は一度指を離した。こういうところだけ、必要以上に慎重になる。

もう一度説明のないボタンを眺めてから、順番を変えずに押していった。表示の数字が一つ進むたび、合っているか確かめるために目を近づける。時計を直すだけなのに、温める時間を設定するときより手間がかかる。

最後の確定ボタンを押す前に、電子レンジの扉を閉めた。何かを温める予定はもうない。台所の明かりを消すには少し早く、雨の音の間に冷蔵庫の低い音が混じる。僕は表示をもう一度だけ読んでから、指をボタンの上へ戻した。

雨に濡れた買い物袋の底を確かめる場面

濡れた買い物袋の底を、三回押した

雨の中から戻ってきて、買い物袋を床に置く前に、底を指で押した。袋は持ち手のところまで濡れていて、紙の繊維が少し膨らんでいる。底が抜ける感じはないのに、押した指先には冷たい湿り気が残った。僕は一度手を離し、それから同じ場所をもう二回押した。合計三回になったところで、これ以上やっても確かめることは増えない、と考えた。持ち替えた手のひらまで湿っていたので、袋ではなく自分の手を先に見ることになった。

袋を持ち上げると、底の端から床へ小さな水滴が落ちた。拭くために手を伸ばしかけたが、先に袋を立てたままにするか、横に寝かせるかで迷った。立てると水が一点に集まりそうで、横にすると濡れた面が広がりそうだった。結局、底が見える向きに少し傾け、指で押した跡を眺めていた。押した跡はすぐ戻り、戻ったことだけが妙に分かりやすかった。もう一度押せば安心できそうだったが、四回目になるのでやめた。

外では雨がまだ続いていて、入口のあたりから細い水音が聞こえていた。袋を処分するほどではないし、乾くのを待つほどのことでもない。僕は床の水滴を拭き、袋を持ったまま、買ったものをどこへ置くかを考えた。底を三回押した理由は、最後までうまく説明できなかった。濡れた袋を置く位置だけ決めて、手を洗う前に持ち手をもう一度つまんだ。

昼の細い雨に濡れた森の縁と土から出た根

森の縁で、右側の根をもう一度見た

右側の根を見たところで、僕は足を止めた。森の縁の土から横に出た根で、昨日の雨を含んだ表面が黒くなっている。昼の細い雨が葉の間から落ち、根の上に小さな点を増やしていた。靴先はその手前で止まっている。

またぐだけなら簡単なのに、左足を上げる前に、根の右端が土へ戻る場所を探した。見れば見るほど、根の下に空いている隙間が浅いのか深いのか分からない。踏んだら折れるとは思わないが、濡れた土を崩してしまう気はした。僕は靴底の向きを一度直した。

右端には細い泥の線がついていた。雨水が流れた跡らしいが、そこだけ指でなぞる気にはならない。少し離れたところに、根の皮のような薄い茶色の欠片が落ちていて、僕はそれを根から剥がれたものかどうか、必要もないのに見比べた。

根の脇に細い水の筋ができ、葉の切れ端を少しずつ押していた。僕は根を確認するより先に、その葉がどこで止まるかを目で追った。数センチ進んで、泥の小さなくぼみに引っかかった。そこまで見届けてから、さっきの右端へ視線を戻した。

今度は根を踏まないよう、出ている部分ではなく、土の固そうなところへ足を置いた。雨で靴の先が滑り、置き直すほどではなかったので、そのまま体を前へ送る。通り過ぎてから振り返ると、根の上の水滴が一つだけ端へ寄っていた。僕はそれを拭かず、次の足元を見た。

雨上がりの歩道にある、内側へ少し寄った白線

歩道の白線が内側へ寄ったところで、靴先を止めた

歩道の白線を、靴先で追いかけるように歩いていた。雨のあとでまだ乾ききらない舗装は、白い線の近くほど薄く光っている。昼前の空は明るく、湿った空気がシャツの背中に残っていた。線はまっすぐ続くものだと思っていたので、内側へ少し寄ったところで足が止まった。

寄った理由は、たぶん歩道の端に何かあったからだ。けれど、そこには目立つものがない。白線だけが、誰かの定規を途中でずらしたように曲がっている。僕は靴先をその線に合わせかけて、つま先の向きを戻した。こういう小さなずれを、歩幅で直そうとする癖がある。

線の外側を見ると、雨水が細い筋になって残っていた。踏めば靴底が濡れるほどではないのに、避けるには十分な幅だった。白線を踏まないようにするのか、水を踏まないようにするのか、一度決めたくなって、同じ場所で二歩ぶん迷った。結局、線にも水にも触れない側へ体を寄せた。

その先の白線はまた元の向きに戻っていた。僕は靴先で形をなぞらず、少しだけ歩道の内側を進んだ。足元を見続けると歩くのが遅くなるので、次の角だけを見ていた。

曇った朝の窓辺に置かれたスマートフォン

Pixel 11の発表を見て、僕は端末を裏返した

今朝、Pixel 11シリーズ発表の見出しを見て、僕は記事を開く前にスマートフォンの角を親指でなぞった。買い替える予定はないのに、こういうニュースだけは先に自分の持ち物を確かめたくなる。窓の外は曇り、昨夜までの雨が残した湿気で、部屋の空気も少し重い。

発表された、という一行しかまだ読んでいない。それなのに僕の端末は何年使ったか、充電の減り方はどうか、画面の端に傷はないかと、急に点検の対象になった。端末を裏返し、戻し、結局そこに新しい傷が増えていないことだけ確認した。確認の仕方が雑なのか丁寧なのか、自分でも判定できない。

新機種のニュースは、性能の話として読むより、自分の手元にあるものとの距離を測る記事になりがちだ。Pixel 11が何を変えるのかは、今の僕にはまだ分からない。分からないまま、発表されたという事実だけで、使い慣れた画面が少し古く見えた。こういう変化は、機械より先にこちらの目に起きるらしい、と書きかけて消した。少し大げさだった。

通知欄へ戻ると、見出しの横に未読の数字が残っていた。Pixel 11の記事を読む前に、僕はその数字を消すため、関係のない通知を一つずつ開いた。読み終えた頃には、発表の内容より、朝からスマートフォンを何度も裏返していた自分の手つきのほうが気になっていた。窓を少し開けるか迷い、湿った空気を入れないよう、そのままにした。

湿った夏の朝にスマートフォンで見るサギソウの写真

今日の花、サギソウの花言葉を読む前に形を拡大した

検索欄に「今日の花」と入れたところで、僕は一度、入力した文字を全部消した。毎朝のように調べているわけではないのに、今日はその四文字を先に置くのが少し急な気がした。窓の外は昨夜の雨を引きずったように白く、07:55の空気は湿っている。

打ち直して出てきたのは、サギソウだった。白い花の形を見て、すぐに鳥に似ていると思ったけれど、その感想は検索結果を読む前にしまっておいた。名前に引っ張られて見ているだけかもしれないし、僕は花を見るとすぐ形の話で片づける癖がある。

花言葉は「夢でもあなたを想う」。画面を指で少し下へ動かし、同じ言葉が別の欄にもあるか確かめた。こういう確認は、間違いを避けたいというより、最初に読んだ一行を信じるまでの時間を延ばしているだけだと思う。

サギソウの写真は、白い輪郭の中央に細い影が集まっていた。僕は花言葉より先に、花びらの左右が本当に同じ形なのかを見てしまい、画像を拡大した。拡大すると、きれいに見えるはずの部分に小さな揺れがあった。

その揺れを見ていたら、さっき消した検索欄の四文字が気になり、もう一度「今日の花」と入力した。別の花が出たらどうするのか、自分でも決めていなかった。候補を並べて選ぶほどのことではないのに、選ぶ前の段階だけは妙に丁寧になる。

結局、サギソウのページを閉じずに、花言葉の一文を読み返した。夢の中まで誰かを想うという意味を、自分のこととして考えたわけではない。ただ、白い形を鳥に似ていると決めつける前に止まれたことだけが、今朝は少し残った。

窓の外から車の音が一台通り、僕は画面を暗くした。指に残った湿り気をズボンで拭いてから、入力欄の文字が消えているかだけ確認した。

夜の暗い台所に置かれた冷蔵庫と取っ手

冷蔵庫の音が止まって、取っ手から手を離せなかった

冷蔵庫の音が止まったので、僕は取っ手に手を置いた。開けるつもりで近づいたわけではない。夜の遅い時間、湿った夏の空気の中で、さっきまで低く続いていた音だけが急に消えた。台所は暗く、冷蔵庫の小さな表示だけが見えていた。

手のひらは取っ手を握らず、上から触れているだけだった。冷えているかどうかを確かめるなら別の場所でもいいのに、僕は金属の端を指でなぞり、扉のゴムが少し浮いていないかまで見た。見たと言っても、暗いのでほとんど見えていない。

音が戻るまで待とうとして、待つ間に取っ手の向きを直した。ほんの少し斜めに見えたからで、直す必要はない。手を離してからも、今度は床に落ちた細い影が取っ手の影なのか、扉の隙間なのかを考えていた。こういう時だけ、目的のない確認が丁寧になる。

やがて冷蔵庫はまた低い音を出した。僕は扉を開けず、取っ手から手を離した。冷気を確かめたかったのか、止まったことを確かめたかったのか、自分でも決めないまま、暗い台所を出ようとしたところで、足元の影をもう一度見てしまった。

1 … 20 21 22 23 24 … 173