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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

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夜の室内で、床から拾われて収納かごの端に置かれる洗濯ばさみ

洗濯ばさみの向きを、拾う前に見た

洗濯物を取り込んだあと、床に落ちていた洗濯ばさみを拾おうとして、僕は指を伸ばすのを一度やめた。夜の十時を過ぎた部屋は、昼間より物の向きが分かりにくい。洗濯ばさみは閉じたまま、つまむ部分をこちらへ向けていたが、金具の輪だけが少し横を向いていた。

そのまま持ち上げれば済むのに、僕は床にしゃがんだ姿勢で、左右から眺めた。挟む口が上なら、洗濯物を外したときにひねった形かもしれない。下なら、落ちるときに裏返っただけかもしれない。どちらも確かめようがないので、向きを見たところで役に立たない。それでも、先に向きを決めてから拾うことにした。

指先で触れる前に、近くに落ちていた小さな糸くずをつまんで端へ寄せた。洗濯ばさみよりそちらのほうが目についたからだ。糸くずは白く、床の明かりの中では紙片にも見えた。拾い直すのが面倒になり、足でさらに壁際へ送ってから、洗濯ばさみを金具の輪が外側になるように持ち上げた。

収納かごへ入れる前に、別の洗濯ばさみと触れ合って、乾いた音が一度した。昼なら気にしなかった音だと思う。僕はかごの中を少しだけならして、今の一個を端へ置いた。向きまでそろえるつもりはなかったのに、置いた場所だけは覚えている。

毛布の上で赤ちゃんを見守る親分猫の広い構図

親分猫の前足が、毛布の端で一度止まった

「親分猫」という呼び方を見つけて、午後四時三十五分、僕はその記事を開いた。毛布の上にいる猫と、そばの赤ちゃんが写っている。最初は赤ちゃんの表情を見ようとしたのに、視線は猫の前足へすぐ戻った。こういう写真では、主役を決めるのにいつも少し時間がかかる。

猫は毛布の上で、前足を赤ちゃんへ伸ばしている。よしよししているように見える、という説明は読めば分かるのに、僕は足の順番ばかり確かめていた。片方が先に触れて、もう片方があとから近づく。その間が、世話を焼く動作というより、寝場所を確認しているようにも見えた。

記事の反応には「親の顔してる」「お世話が上手」といった声が並んでいた。僕も同じ言葉を使いそうになったが、入力欄を開くところまでは進まなかった。親分猫と呼ばれているのに、本人は大げさなことをしているつもりがなさそうで、その無関心そうな顔のほうを長く見ていた。

毛布の端が少し盛り上がっていて、猫の前足がそこへ乗るたび、赤ちゃんとの距離がわずかに変わる。僕は画像を閉じる前に、前足が触れる位置をもう一度見た。かわいい、で終わるはずの記事なのに、最後まで順番の確認をしていた。

夏の朝、日なたの手すりに指先を伸ばす場面

手すりの熱を、渡る前に確かめた

手すりを使おうとして、僕は指先を数センチ手前で止めた。朝の光を受けた金属が、見た目から想像するより明るく光っていたからだ。暑いかどうかを確かめるだけなのに、いったん手のひらを近づけ、触れる場所を選んだ。こういうとき、握りやすさより先に温度を確認する癖がある。

端のほうはまだ平気そうに見えたので、そこへ人差し指だけを置いた。熱いというほどではない。ただ、ひんやりした手すりを期待していた指には、はっきり夏の温度だった。手を離すほどでもなく、握り直すほどでもない中途半端さが残り、僕はそのまま一度だけ表面を撫でた。

手すりの下に細い影ができていて、そこなら温度が違うのかと思った。確かめる必要はないのに、影の部分へ指を移す。実際には少ししか変わらず、僕は納得したような、していないような顔で段差を越えた。握った時間より、触る前の待ち時間のほうが長かった。

先へ進みかけてから、手のひらに残った感触を確かめるため、右手を開いた。何も付いていないのに、金属の丸い形だけが指の内側に残っている気がした。汗を拭くほどではなく、ポケットへ手を入れる理由にもならないので、指を二度曲げてから歩き出した。

朝の池の水面に浮かぶ向きの定まらない一枚の葉

池の水面で、葉の向きを決められなかった

池の縁まで来たとき、水面に浮いた葉がこちらを向いていないことに気づいた。昨夜の雨が残した湿り気で、石の表面は少し黒い。朝の光は雲に隠れたり戻ったりしていたが、池の水面には白く薄い明るさが広がっていた。

葉は丸い形ではなく、片側だけが少し折れている。最初は折れた側を岸へ向けていると思った。けれど、目を横へずらすと、葉の影が水の揺れで伸び、向きそのものが変わったように見える。僕は一度しゃがみ、立ったまま見たときと同じか確かめた。

水面には風の筋が細く走っていて、葉の端だけが遅れて動く。流れているのか、ただ揺れているのか、見ているだけでは決められない。手を出して動かすほどのことではないので、岸のどの石と並んで見えるかを基準にしてみたが、石のほうも水面に映って少しずれていた。

近くの草の先から水滴が一つ落ち、葉のそばに小さな輪ができた。輪が消えるまで待つつもりはなかったのに、僕はその数を途中まで数えてしまった。三つ目の波紋が葉の下へ入ったところで、向きを確かめるのをやめ、濡れた石を避けて縁から少し離れた。

朝の窓辺でガラスから少し離されたヒマワリの葉

ヒマワリの花言葉を、葉先から少し離れて読んだ

ガラスに触れそうなヒマワリの葉を、僕は指一本分だけ横へ逃がした。花瓶を動かすほどではないと思ったのに、葉先が窓辺のガラスへ近づくたび、そこだけ確認してしまう。朝の光はまだ強すぎず、黄色い花びらの重なりより、葉の影のほうが先に目に入った。

花言葉を調べようとして画面を開き、「あなただけを見つめる」という文で止まった。ヒマワリの花言葉としてよく知られているらしい。僕は花の中心を見ていたわけではなく、触れているかいないか分からない葉先を見ていたので、その言葉を素直に受け取るのが少し難しかった。画面を少し下へ送って、別の説明を探しかけても、結局そこへ戻った。

一度、葉を反対側へ倒してから、やはり窮屈に見えて元へ戻した。窓ガラスには湿気が残ったような薄い曇りがあり、葉先との間隔を目測すると、さっきより広くなった気がする。こういう確認は測れば終わるのに、僕は測る道具を取りに行かず、首を左右に傾けて済ませた。花瓶の水面まで見ておきながら、見るべき場所はそこではなかった。

花言葉のページを閉じる前に、もう一度だけ文章を読み直した。花の向きではなく、葉の置き場所を直している自分には、少し大きすぎる言葉に思えた。ヒマワリはそのままにして、僕は画面を伏せ、ガラスから離れた椅子に腰を下ろした。

朝の光が足元に届かない自動販売機と歩道

自動販売機の足元だけ、朝の光が届かなかった

自動販売機の前を通り過ぎかけて、僕は足を一度だけ戻した。飲み物を買うつもりではなかったので、戻った理由をすぐには決められない。朝七時半の光は街角の上から斜めに差しているのに、機械の足元だけが四角く暗い。湿気の残る空気の中で、舗装の細いくぼみにたまった水へ、明るい空だけが小さく映っていた。

本体の影だと思っていた暗がりは、下の金属板が少し前へ出ているせいだった。僕はしゃがまず、靴先を板の端に合わせてみた。触れてはいない。ただ、光がどこから始まるかを、靴の位置で確かめたかった。こういう確認をしていると、買わないのに機械を選んでいるようで、ボタンの並びまで見てしまう。左端の表示だけ、朝の光を細く返していた。

側面には、掃除の布が届かなかったらしい灰色の筋が一本あった。水滴ではなく、乾いた跡に見えたので、指でなぞる代わりに首を少し傾けた。背後から自転車の音がして、僕は一歩横へ寄る。通り過ぎたあとも、暗い四角の中に自分の影が重なっていたのかを、もう一度だけ見た。

実際には、僕が動けば影も動く。それで話は終わるはずなのに、足元だけを見ていたせいで、機械の上にある空の明るさを見落としていた。硬貨を出すことはなく、僕は横の歩道へ進んだ。靴底に小石が挟まっているのに気づき、角で二度こすってから、歩く速さを戻した。

雨に濡れた歩道と街灯の下に止まる自転車

街灯の下で、自転車のベルを二度見した

街灯が点いたかどうかを確かめるために、僕は歩道の端で一度だけ立ち止まった。雨は強くないのに、昨日から濡れている感じが道全体に残っていて、靴の裏がいつもより薄く滑る。街灯は点いていた。ただ、明るくなったというより、濡れた舗装の上に丸い場所ができただけに見えた。

その丸い場所の中に、自転車が一台止まっていた。前かごの底に雨粒がたまり、ベルの横だけが乾いている。持ち主が拭いたのか、そこだけ雨が当たりにくかったのか、僕はベルの向きを確認した。確認しても分からないのに、正面を向いているか、少し斜めかを二度見た。街灯の光で金具が白く光り、音を鳴らす理由もないのに、指を伸ばしかけた。

歩き出してから、さっきの自転車より、街灯の根元に貼られた小さな透明テープのほうを覚えている。端が浮いて、雨を含んだ砂が下に入り込んでいた。剥がれかけを見つけると、つい靴先で押さえたくなるが、今日はそこまでしなかった。靴が汚れるのが嫌だったのか、テープを踏むと余計に剥がれそうだったのか、自分でも決めきれないまま、歩道の幅の広いほうへ少し寄った。

街灯は背中側へ移り、前の道には店の明かりが伸びていた。雨のせいで看板の色がぼやけていたが、読もうとはしなかった。僕は濡れた袖口を一度だけ握り、手を開いた。水が落ちる場所を見てから、次の角を曲がるか、そのまま進むかを、まだ決めていない。

小雨の海岸で閉じられない傘

海の手前で、傘を閉じる順番を考えた

傘の先を海へ向けたまま、僕は閉じるきっかけを失っていた。海の手前まで来ると、雨は昼間より細くなっていたのに、湿った空気がシャツの首元へまとわりつく。19時05分の空はもう明るさを決めかねていて、沖と雲の境目もよく分からない。傘をたたむだけなら数秒なのに、骨を一本ずつ戻す順番を考えてしまった。

足元には、雨を含んだ砂が薄く光っていた。波が届く場所まではまだ少しあり、僕は海へ近づくより、傘の内側にたまった水滴の数を見ていた。数えられるものではないのに、三つ目までは追えた。柄を握り直すと、手のひらに冷たさが残り、さっきまで傘を差していたことだけが妙に確かになった。

一度、閉じようとして留め具に指をかけた。けれど、布をまとめる前に沖で波が崩れ、白い部分が一瞬だけ見えた。強い音ではなかったので、僕は聞き間違いかと思い、海ではなく足元へ視線を落とした。濡れた砂に靴底の跡が半分だけ残り、次の雨で端から浅く消えていた。

傘を開いたまま、僕は海岸の手前を少し横へ歩いた。進む方向を変えた理由は自分でもはっきりしない。傘の端から落ちる水が袖を濡らし、拭おうとした指が布の縫い目に引っかかった。そこでまた立ち止まり、閉じるのは帰るときでいい、と決めかけたところで、その決め方も傘の内側に置いた。

雨の降る夕暮れの玄関に置かれた靴べらと濡れた靴

靴べらを、すぐには戻さなかった

靴を脱ぐ前に、靴べらの柄を指で探った。玄関の明かりをつけると、外の雨がガラス越しに細く見えて、床には靴底から落ちた水が二、三滴だけ残っていた。いつもなら使った靴べらをすぐ横の筒へ戻すのに、その日は手に持ったまま、履いてきた靴のかかとを見ていた。

かかとの革が少し内側へ折れていた。靴べらを使ったせいなのか、歩いている間についたものなのか、見ても分からない。僕は指で折れ目を押し、戻ったような戻らないような形を確かめた。靴べらの先にも黒い跡がついていたので、ティッシュを取りに行こうとして、濡れた床の滴を先に拭いた。

拭き終わってから、ティッシュを捨てる場所を考える間も、靴べらは右手に残っていた。筒へ戻せば済むのに、柄の端にある小さな傷を見つけてしまい、前からあった傷かどうかを思い出そうとした。こういう確認はだいたい答えが出ない。玄関の外では雨の音が少し強くなり、僕は靴を脱いだまま、片足だけ靴下で立っていた。

それから靴べらを筒へ差し込んだ。底に当たった音が思ったより軽く、入れ方が悪かったのかと一度だけ柄を持ち直した。濡れた靴は新聞紙の上へ置いたが、紙の端が少しめくれていたので、そこだけ指で押さえた。夕食の支度をする前に、手を洗うことを忘れないようにしながら。

昼前の横断歩道脇に残る小さな水たまりを描いた手作りミニチュア

水たまりの縁だけ、信号より長く見ていた

信号が変わるのを待ちながら、僕は足元の水たまりの縁ばかり見ていた。昼前の道路は昨日の雨をもう乾かし始めていて、黒い舗装の上に残った水だけが、そこだけ時間を遅らせているように見えた。

水たまりは大きくない。靴の先を少し外へ向ければ避けられる程度なのに、縁の一か所だけが歩道のひびに沿って細く伸びている。その線が白線と同じ向きなのか、僕は信号を確認するより先に目でなぞった。

空は水面にそのまま映らず、雲の明るさだけが薄く浮いていた。風はほとんどなく、車が通るたびに水面の端が小さく震える。揺れが止まるまでを数えようとして、三つ目でやめた。数えるほどのことではない。

信号機の表示が変わった気配がして、周りの人の足が動いた。僕も一歩出かけたが、水たまりを踏まないように靴先を戻した。渡るために待っていたのに、最後に確かめたのは信号ではなく、乾いた場所の幅だった。

その幅なら十分通れる。そう思ってから、わざわざ一度だけ靴底を見た。濡れてはいない。昨日の雨の名残を避けたつもりで、実際には何を避けたのか、自分でもよく分からないまま歩き始めた。

横断歩道を渡る途中で、後ろの水たまりはもう見えなくなった。昼前の光が強くなり、額に汗が出たので、僕は信号が変わる前に渡り切れたかどうかを考えるのをやめた。

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