
炊飯器の蓋の米粒を、朝の支度の途中で見逃した
炊飯器の蓋を閉めようとして、内側に米粒が一つ残っているのを見つけた。朝の八時十四分で、窓から入る光はもう白く、炊きたての湯気だけが蓋の縁に薄くたまっていた。指で取れば終わるのに、僕は閉じる動作をいったん止めたまま、米粒の位置を確認した。中央ではなく、蒸気の通り道らしい細い溝の横に張りついている。
しゃもじでよけたつもりが、最後の一粒だけ逃げたのだと思う。昨夜ならすぐに布巾を持ってきたはずなのに、朝はこういう小さな残り方を後回しにする。蓋を開けたままにして、先に茶碗を流しへ運んだ。蛇口の水音が始まると、米粒のことより、茶碗の底に残った薄いご飯の膜のほうが気になって、そこを親指でこすっていた。
戻ってきたとき、蓋の内側は少し乾いていた。米粒も白いというより、端だけ半透明になっている。僕は炊飯器の説明書に書いてあった手入れの順番を思い出そうとしたが、毎回そこまで正しくできているわけではない。結局、濡らした布巾を流しの端に置き、蓋を閉めずに朝の支度を続けた。
冷たい水で布巾を絞ると、米粒は思ったより簡単に外れた。布巾の上へ落ちたものを見て、取ったことより、取る前に何度も場所を見たことのほうを覚えている。炊飯器の蓋を閉める音を小さく聞いてから、僕はまだ片づけていない茶碗を一つ手にした。








