Blog

思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

投稿日が新しい順に表示しています。

昼の街にある、白線の一部が欠けた横断歩道

横断歩道の白線を、欠けたところだけ避けて渡った

白線の上に足を置きかけて、僕は一度だけ靴先を横へずらした。横断歩道の途中で、白く塗られた部分が小さく欠けていて、そこだけ黒いアスファルトが見えていた。避けなければならない理由はない。段差があるわけでも、何か落ちているわけでもない。それでも、見つけてしまったあとでは、その欠けたところを踏むのが少し雑な気がした。

昼の街は明るく、雲の少ない空から光が落ちていた。九月に入ったとはいえ、歩いていると腕に暑さがまとわりつく。風はほとんどなく、信号を渡るあいだもシャツの背中が乾かないままだった。僕は急いでいたわけではないのに、最初の数歩だけは信号が変わる前に渡り切る人のような歩幅になっていた。

白線は何本か続いていて、欠けた部分はそのうちの一つの端にあった。塗料が薄くなったというより、角だけが削れているように見える。近づいたときには、右足を置く場所を変えるほどでもないと考えたのに、足はもう左側へ寄っていた。通り過ぎてから振り返ることはしなかった。振り返ると、今度は欠け方を確かめるために立ち止まりそうだったからだ。

次の白線へ移るとき、靴底がアスファルトの細かなざらつきを拾った。白いところは見た目ほど滑らかではなく、表面に細いひびがいくつか走っている。僕はそこで、白線なら全部同じように踏めると思っていた自分の歩き方を、急に細かく見てしまった。足の向きも、間隔も、普段は記憶していない。なのに一度ずらした右足だけは、妙に覚えている。

道路の反対側へ着いてからも、欠けた場所の大きさを頭の中で測ろうとした。指二本分くらいだったか、もっと狭かったか、はっきりしない。実際に測るものでもないので、すぐに考えるのをやめた。こういうとき僕は、重要ではない部分だけ正確に覚えようとして、肝心の用事を忘れそうになる。今日はまだ忘れていないが、横断歩道を渡っただけで少し余計な手間を使った。

そのまま歩き出して、数歩進んだところで、さっきの歩幅に戻っていることに気づいた。白線のない舗装の上では、足をどこへ置くかを決める必要もない。けれど僕は一度だけ足元を見て、靴の先に小さな砂が付いているのを確認した。取るほどではないので、そのまま次の角まで歩いた。

皿に並べたグリーンキウイとゴールドキウイの断面

キウイの日、グリーンとゴールドを並べて迷ったこと

グリーンキウイとゴールドキウイの栄養の違いを紹介する記事を読んで、冷蔵庫にあった二つを同じ皿へ並べた。今日はキウイの日らしい。こういう記念日は、知った直後だけ少し律儀になる。皿を出すところまでは迷わなかったのに、二つの距離だけは妙に気になって、端に寄せすぎないよう何度か置き直した。

先に手に取ったグリーンは、表面の毛が指に引っかかって、まだ硬そうだった。ゴールドのほうは同じくらいの大きさでも触った感じが少し素直で、包丁を入れる順番をそこで迷った。栄養を比べるつもりだったのに、僕はいつも食べやすそうなほうから始めたくなる。結局、最初に持ち上げたグリーンを皿へ戻し、ゴールドを一度だけ転がしてからまたグリーンへ戻った。

半分に切ると、グリーンの中心には黒い種が細かく並び、ゴールドは果肉の黄色が先に目に入った。見た目の違いは知っていたはずなのに、皿の上で隣り合うと、思っていたよりはっきりしている。スプーンですくったグリーンは酸味があり、ゴールドは口当たりが丸い。ただ、どちらが上という話ではなく、同じ果物の中で好みの向きが違うという感じだった。すくった跡が断面の中央に残るのも、二つで少し違って見えた。

記事では栄養素の差も説明されていたけれど、僕が覚えていたのは、切った断面を見比べるために皿を何度も回したことのほうだ。窓から入る late morning の光で、種の並び方が少しずつ変わって見えた。切り口の水分が光る位置まで見ようとして、皿を回しすぎ、スプーンの柄を端に当てた。結局、二つを交互に食べ、最後の一口をどちらにするかだけ決めないまま、スプーンを皿の端へ置いた。

朝の光の中で咲くリンドウと閉じたつぼみ

リンドウの青を、名前より先に見た朝

リンドウの花を見ようとして、最初に目に入ったのは花ではなく、少し斜めになった茎だった。朝の七時半、窓から入る光はもう夏の勢いを持っているのに、空気には昨日までとは違う薄さがある。九月一日の朝に見る花として、リンドウを選んだというより、青い色がそこにあることを先に思い出した。茎は完全に倒れているわけではなく、葉の重なりのあたりから少しだけ横へ逃げている。花を見る前にそこを直すべきかとも思ったが、手を出さずに立ったままにした。

花は上を向いているものもあれば、まだ口を閉じたままのものもある。開いている一輪の縁を見ていると、青が一色ではないことに気づいた。中心へ向かうにつれて少し濃くなり、花びらの端では光を受けて弱く見える。僕はこういうところを見始めると、肝心の名前を確認するのが遅くなる。リンドウで合っているか、札を見る前に茎の数を数えかけて、途中でやめた。数えたところで何か分かるわけではないのに、三本目の途中まで進んでしまったので、そこから先を続けるのも中途半端だった。

リンドウの花言葉には「正義」や「誠実」があるらしい。強い言葉なので、青い花を見た瞬間にそれを当てはめると、少し立派に見すぎる気がした。正義というほどまっすぐに伸びていない茎もあるし、誠実という言葉から想像する整った咲き方でもない。葉の向きもそろっておらず、開いた花の隣で、まだ形を決めきらないつぼみが小さく残っている。けれど、咲く準備の途中にあるつぼみまで含めて眺めると、その二つの言葉が完全に場違いとも思えなかった。言葉のほうを花に合わせるのか、花を見て言葉の印象を少し変えるのか、そこだけ決められないままになった。

花の向きを確かめるために、僕は一度だけ見る位置を変えた。正面からは開いた花ばかりが目立ったが、少し横へずれると、葉の間に小さなつぼみが隠れていた。つぼみは青くなる前のような色で、指で触れて確かめたいとは思わなかった。代わりに、光がそこまで届いているかだけを見た。葉の影がつぼみの片側にかかり、反対側だけが明るくなっている。朝のうちに開くのか、今日はこのままなのか、僕には分からない。紙に名前と花言葉を書き留めようとして、最初の一文字だけ書いたところで、茎の傾きをもう一度見ている。文字の続きを書くために視線を下げたのに、結局また花のほうへ戻ってしまった。

夜の室内の低いテーブルに置かれたリモコン

リモコンの電池ぶたを、閉め直した夜

リモコンを置こうとして、電池ぶたの端が少し浮いているのに気づいた。指で押せば済む程度なのに、そのまま低いテーブルへ戻すのが嫌で、いったん持ち上げた。裏返すと、ぶたは外れているわけではなく、片側だけ溝からずれていた。

僕は押し込む前に、電池の向きまで確認した。さっきまで普通に使えていたのだから、そこを見る必要はない。それでも小さなばねの位置を見て、電池の白い印字が内側に隠れていることまで確かめた。確認したというより、見る場所を間違えたくなかっただけだと思う。

ぶたをいったん端から合わせると、ぱち、と短い音がした。閉じたように見えたので手を離したが、親指で中央をもう一度押した。今度は浮き上がらない。こういうとき、最初の一回で終わらせればいいのに、終わったかどうかを確かめる動作が余計に一つ増える。

窓の外は雲が広がった夜で、部屋の中にも夏の湿った空気が残っている。リモコンの表面は少し滑り、握った指の跡が薄く見えた。画面を操作する予定はなかったのに、電池ぶたのためだけに手に取ったことが妙に残った。

テーブルへ戻すとき、今度は表を上にした。いつもどちら向きに置いているのか思い出せず、二度見してから、さっきより少し端へ寄せた。ぶたがまた浮いていないか、横から確認しているうちに、押す場所が分からなくなった。

暮れかけた空を背景に、網戸の端と布が見える室内の窓

網戸の端に残ったほこりを、閉める前に見た

窓を閉めようとして、指をかけたところで一度止まった。網戸の端に、細いほこりが少しだけ引っかかっていた。大きな塊ではないし、そのまま窓を動かしても困ることはなさそうだったが、見つけたあとで見なかったことにするのは、かえって手間が増える気がした。閉めるだけの動作なのに、網戸の端だけが残ってしまうのも落ち着かなかった。

19時20分の外はまだ完全には暗くなく、雲の切れ目から入る光が網の目を薄く浮かせていた。昨日の小雨の名残なのか、枠の下側には乾いた細かな汚れもある。僕は窓を閉める動きを途中まで戻し、網戸の端を反対側からも見た。片側からは一本に見えたものが、向きを変えると短い線が二つ重なっていた。顔を近づけすぎると全体が見えなくなるので、少しだけ後ろへ下がった。

指で取ると網を押しそうだったので、近くにあった布の角を使った。けれど最初は布が枠に当たり、ほこりは取れずに少し横へずれただけだった。布を持ち替えるほどでもないと思いながら、結局、角の折れた部分を選び直す。もう一度、今度は下から上へなぞる。取れたかどうかを確認するため、網戸そのものではなく、外の暗くなりかけた空を通して端を見た。

ほこりは布の角に小さく付いていた。僕はそれをすぐ捨てず、なぜか布を裏返して同じ場所をもう一度なぞった。何も付かなかったので、そこでやめた。窓を閉めるとき、さっきより手応えが軽くなったように感じたが、実際に変わったのかは分からない。手を離す位置だけ少し考えてから、いつものところまで動かした。

夏の午後、石の間で細くなった川の流れと川辺の草

川の流れが一度だけ細くなった場所で、足を止めた

川の流れが細くなった場所で

しゃがんだまま、右足を少し引いた。先へ進むだけなら、そのまま置けばよかったのに、靴先の前で川の流れが急に細くなっている。川幅そのものが変わったわけではなく、浅いところに出た石が二つ、流れの通り道を狭めていた。水はそこで一度だけ音を変え、広がる前より高く聞こえた。

八月最後の日の東京は、雲の切れ目から日が出たり隠れたりしていた。午後三時二十一分、気温は二十八度あるらしいが、川辺に立つと数字ほどのことは考えなかった。汗をぬぐうより、石の上に残った濡れた筋のほうが目に入った。さっきまで水が通っていた場所なのか、これから通る場所なのか、見ただけでは判断できない。

僕は足を進める向きを少し変え、流れに対して斜めに立った。こうすると水面の反射が減り、底の小石まで見える。見えたからといって、踏んで安全だとは限らない。底の一つが丸いのか平たいのか、目を細めて確かめたあと、結局いちばん平たそうなところではなく、その隣の砂の部分に靴を置くことにした。

川の流れを見ながら、置く場所を決める

足を出しかけて、いったん戻した。戻すほどの理由はなかったのだが、靴底が濡れた石の表面に触れる直前の感触を、まだ知らないままにしたくなかった。僕はこういうとき、危険を避けるより先に、どこまでなら自分で確かめたと言えるのかを考えてしまう。考えている間にも水は石の脇を通り、細い泡を一つだけ下流へ押し流した。

その泡が消えるまで待つつもりはなかった。それでも視線が追いついてしまい、泡が次の浅瀬で崩れるところまで見た。川の流れを見ていると、速い場所と遅い場所が隣り合っているのが分かる。僕が立っている側の水はゆっくりなのに、石の間だけが細く速い。近づけて見れば見るほど、足を置く場所を決める作業が細かくなっていった。

もう一度、靴先を砂へ向けた。今度は水の音を聞こうとせず、足元だけを見た。砂は少し沈み、靴の縁に冷たい水が触れたが、足を取られるほどではなかった。体重を移すと、細くなった流れが靴の前を横切った。さっき音が高くなった場所は、足元から見るとほんの数十センチほどの幅しかない。

渡りきったあとも、すぐには立ち上がらなかった。振り返って石の向きを確認し、さっき平たいと思った石が、横から見ると意外に傾いているのを見つけた。踏まなくてよかった、というほど大げさなことではない。ただ、見える角度を変えると判断が変わることだけは、靴を濡らしたあとにも残った。僕は膝についた草の切れ端を払ってから、川の流れが広がる先へ目を向けた。

夏の昼の草原で風に揺れる穂先

草原の風が穂先の向きを変えたあと

草原の風が変わったあとに残るもの

穂先がいっせいに右へ倒れたので、僕も目をそちらへ追いつかせた。ところが、少し待つ間もなく、倒れ方がゆっくりほどけて、今度は左へ向き始めた。風が止まったようには見えないのに、草の表面だけが別の向きを選んでいる。僕は立ったまま、最初に揺れた穂先を見失わないようにしていた。

向きを決めたのは穂先だった

昼の光では、細い穂の影が地面に短く落ちていて、揺れるたびにその影も横へ滑った。茎の途中に小さな曲がりがあるものは、風が変わってもすぐには戻らず、隣の穂より一拍遅れて動く。僕はその遅れを風の強さだと思いかけたが、同じ場所でも倒れる速さが違うので、そこで考えるのをやめた。判断材料にしているつもりで、見やすい穂だけを選んでいたからだ。

足元の草を踏まないように一歩だけ横へずれると、さっきまで重なっていた穂先の隙間が開いた。奥にも同じような揺れが続いているが、全部が同時に動くわけではない。近くの数本が左へ傾いたあと、少し離れた列が遅れて同じ向きになった。僕は風向きを確かめるために来たわけではないのに、いつの間にか、どの穂を基準にするかで迷っていた。

一度、右へ倒れたものだけを目で追ってみたが、途中で別の穂が先に揺れて、視線がそちらへ逃げた。戻ろうとしても、細い先端は似た形ばかりで、見分けがつかない。仕方なく、いちばん低く曲がった茎の隣にある穂を目印にした。風がまた向きを変えたとき、その穂はすぐには動かず、僕は確認のために首だけを少し傾けた。

草原全体は同じ方向へ流れているようで、近くではばらばらに見える。そのばらばらさを直そうとして、僕は何度も視線を端から端へ動かした。けれど、風が変わったあとに残る遅れまで揃えることはできず、最後は目印にした穂の隣を見たままになった。次にどちらへ倒れるかを待つには、まだ少し時間がかかりそうだった。

晴れた夏の午前、テーブルの上で三分を待つカップ麺

カップ麺の三分間を、急がず待つ理由

カップ麺の三分間を待つ

湯を注いだカップ麺のふたを押さえ、僕はテーブルの前から離れずにいた。今日は午前十時十五分。東京の空はよく晴れていて、窓から入る光が容器の白い縁だけを妙に明るくしている。三分なら、立って別のことをするほど長くない。

早く食べたいのに、早くしない

今日のニュースで、カップ麺は一分でも作れるのに、あえて三分待つという話を読んだ。麺が戻る時間だけでなく、食べる側が熱さを受け入れるための間でもあるらしい。なるほどと思った直後、僕はふたの端を二度押した。そこは確認しなくてもよい場所なのに、浮いていると落ち着かない。

タイマーを見る代わりに、容器の脇ににじんだ水滴を数えかけた。ひとつ、ふたつでやめて、今度はふたの印刷された線を目でなぞる。三分を待つだけなのに、僕の注意は麺から何度も逃げる。急いでいるときほど、関係のない角が気になる。

ふたを開ける手前で

残り時間を確かめるために立ち上がりかけ、椅子の脚を見て止まった。昨日の軽い雨のせいか、床に小さな湿り気が残っている。拭くほどではないと判断して、座り直す。カップ麺のふたはまだ押さえたままで、僕は湯気の逃げ道だけを気にしている。

三分が過ぎたかどうかは、時計を見れば分かる。それでもすぐには開けず、ふたの端に親指を置いたまま、少しだけ待っている。麺がちょうどよくなったかは、開けるまで分からないので、その線を越える前で止まっている。

朝の光の中でひらききらない朝顔が咲く鉢

朝顔の花言葉を、ひらききらない一輪の前で考えた

朝顔の花言葉を、ひらききらない一輪から考える

花の前を通り過ぎるつもりで、僕は一度だけ足を止めた。朝顔の花は咲いていたけれど、いつものように丸くひらききってはいなかった。青紫の端が内側へ寄り、中央に細いすき間が残っている。閉じているわけではないし、咲いていると言い切るには少し足りない。そういう中途半端な形を、僕は朝からじっと見ていた。

朝顔の花言葉を思い浮かべると、まず「愛情」や「結束」という言葉が出てくる。以前なら、花が大きくひらいた姿に似合う言葉だと思って、そのまま納得していたはずだ。けれど今日は、花びらの重なり方ばかりが目についた。外側の一枚だけが少し厚く見え、そこに朝の光が引っかかっている。花言葉より先に、ひらき方の順番を数えたくなった。

ひらく途中の形に目が止まった

僕は鉢の向きを変えなかった。正面を探して動かすと、見やすい角度は作れるけれど、今見えているものまで変えてしまう気がしたからだ。実際には、そんな大げさな判断ではない。ただ、左側から見たときの折れ目が妙に気になって、右へ回り込むのをやめただけである。朝顔の花言葉を考えるつもりが、花の見え方に自分の都合を混ぜないことへ注意が移っていた。

葉の一枚には、昨日の細い雨が乾ききらなかったような跡があった。指で確かめることはせず、近づいた顔を少し戻した。触れば分かることもあるのだろうが、今日は触らないまま分からない部分を残したかった。ひらききらない花を見ていると、「愛情」という言葉も、強く抱え込むことではなく、形を急いで決めないことに近く思えてくる。これは僕の勝手な読み方で、正しいかどうかは分からない。

それでも、出かける前にもう一度だけ花の中央を見た。すき間の奥は暗く、花の内側に何があるのかまでは見えない。完全に開くのを待つほど時間を使うつもりはないのに、あと少しだけと思ってしまう。僕は結局、朝顔の花言葉を書き留めず、ひらきかけた端の位置だけを覚えたまま、その場を離れた。

夜の小さな部屋で首を振る扇風機

扇風機の首振りを、肩の位置で一度だけ直した

扇風機の首振りが肩を外れているので、僕は椅子に座ったまま、風が通り過ぎるたびに右肩を少しだけ前へ出していた。風そのものは来ているのに、待っている時間のほうが長い。夜の部屋は音が少なく、首が端まで向いたときの小さな作動音だけが妙にはっきり聞こえた。

立ち上がって正面から見ると、扇風機の向きは大きくずれていない。床の上の本体を数センチ動かすほどではないし、角度の目盛りを探すほどでもない。けれど肩に当たる位置だけは気になる。僕は首の部分に指を添え、止めるのではなく、ほんの少しだけ向きを直した。

すぐに椅子へ戻ると、風は前より早く肩へ届いた。顔に当たり続けるほど強くはなく、首を振る途中で耳の横を抜けていく。確認のために姿勢を変えず、背中を椅子へ押しつけたまま、次に風が来るまで待った。こういう確認だけは、眠る前でも省けない。

その間、扇風機の脚の片方に薄いほこりが付いているのが見えた。掃除を始めると首振りの具合を忘れそうなので、そこへ手を伸ばさず、目だけで一度なぞった。普段なら先に拭くのに、今夜は肩の位置のほうが優先だった。

もう一度風が来たとき、肩の丸みに沿って布が少し揺れた。僕はそこで首の角度を変えず、椅子の位置も動かさなかった。直したのは一度だけなのに、何度も確かめたせいで、扇風機の動く範囲まで覚えてしまいそうだった。

スイッチへ手を伸ばす前に、首がこちらを向くのを待っている。次に風が当たったら止めるつもりで、肩を元の位置へ戻し、足先だけを床に置き直した。

1 … 11 12 13 14 15 … 173