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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

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雨に濡れた買い物袋の底を確かめる場面

濡れた買い物袋の底を、三回押した

雨の中から戻ってきて、買い物袋を床に置く前に、底を指で押した。袋は持ち手のところまで濡れていて、紙の繊維が少し膨らんでいる。底が抜ける感じはないのに、押した指先には冷たい湿り気が残った。僕は一度手を離し、それから同じ場所をもう二回押した。合計三回になったところで、これ以上やっても確かめることは増えない、と考えた。持ち替えた手のひらまで湿っていたので、袋ではなく自分の手を先に見ることになった。

袋を持ち上げると、底の端から床へ小さな水滴が落ちた。拭くために手を伸ばしかけたが、先に袋を立てたままにするか、横に寝かせるかで迷った。立てると水が一点に集まりそうで、横にすると濡れた面が広がりそうだった。結局、底が見える向きに少し傾け、指で押した跡を眺めていた。押した跡はすぐ戻り、戻ったことだけが妙に分かりやすかった。もう一度押せば安心できそうだったが、四回目になるのでやめた。

外では雨がまだ続いていて、入口のあたりから細い水音が聞こえていた。袋を処分するほどではないし、乾くのを待つほどのことでもない。僕は床の水滴を拭き、袋を持ったまま、買ったものをどこへ置くかを考えた。底を三回押した理由は、最後までうまく説明できなかった。濡れた袋を置く位置だけ決めて、手を洗う前に持ち手をもう一度つまんだ。

昼の細い雨に濡れた森の縁と土から出た根

森の縁で、右側の根をもう一度見た

右側の根を見たところで、僕は足を止めた。森の縁の土から横に出た根で、昨日の雨を含んだ表面が黒くなっている。昼の細い雨が葉の間から落ち、根の上に小さな点を増やしていた。靴先はその手前で止まっている。

またぐだけなら簡単なのに、左足を上げる前に、根の右端が土へ戻る場所を探した。見れば見るほど、根の下に空いている隙間が浅いのか深いのか分からない。踏んだら折れるとは思わないが、濡れた土を崩してしまう気はした。僕は靴底の向きを一度直した。

右端には細い泥の線がついていた。雨水が流れた跡らしいが、そこだけ指でなぞる気にはならない。少し離れたところに、根の皮のような薄い茶色の欠片が落ちていて、僕はそれを根から剥がれたものかどうか、必要もないのに見比べた。

根の脇に細い水の筋ができ、葉の切れ端を少しずつ押していた。僕は根を確認するより先に、その葉がどこで止まるかを目で追った。数センチ進んで、泥の小さなくぼみに引っかかった。そこまで見届けてから、さっきの右端へ視線を戻した。

今度は根を踏まないよう、出ている部分ではなく、土の固そうなところへ足を置いた。雨で靴の先が滑り、置き直すほどではなかったので、そのまま体を前へ送る。通り過ぎてから振り返ると、根の上の水滴が一つだけ端へ寄っていた。僕はそれを拭かず、次の足元を見た。

雨上がりの歩道にある、内側へ少し寄った白線

歩道の白線が内側へ寄ったところで、靴先を止めた

歩道の白線を、靴先で追いかけるように歩いていた。雨のあとでまだ乾ききらない舗装は、白い線の近くほど薄く光っている。昼前の空は明るく、湿った空気がシャツの背中に残っていた。線はまっすぐ続くものだと思っていたので、内側へ少し寄ったところで足が止まった。

寄った理由は、たぶん歩道の端に何かあったからだ。けれど、そこには目立つものがない。白線だけが、誰かの定規を途中でずらしたように曲がっている。僕は靴先をその線に合わせかけて、つま先の向きを戻した。こういう小さなずれを、歩幅で直そうとする癖がある。

線の外側を見ると、雨水が細い筋になって残っていた。踏めば靴底が濡れるほどではないのに、避けるには十分な幅だった。白線を踏まないようにするのか、水を踏まないようにするのか、一度決めたくなって、同じ場所で二歩ぶん迷った。結局、線にも水にも触れない側へ体を寄せた。

その先の白線はまた元の向きに戻っていた。僕は靴先で形をなぞらず、少しだけ歩道の内側を進んだ。足元を見続けると歩くのが遅くなるので、次の角だけを見ていた。

曇った朝の窓辺に置かれたスマートフォン

Pixel 11の発表を見て、僕は端末を裏返した

今朝、Pixel 11シリーズ発表の見出しを見て、僕は記事を開く前にスマートフォンの角を親指でなぞった。買い替える予定はないのに、こういうニュースだけは先に自分の持ち物を確かめたくなる。窓の外は曇り、昨夜までの雨が残した湿気で、部屋の空気も少し重い。

発表された、という一行しかまだ読んでいない。それなのに僕の端末は何年使ったか、充電の減り方はどうか、画面の端に傷はないかと、急に点検の対象になった。端末を裏返し、戻し、結局そこに新しい傷が増えていないことだけ確認した。確認の仕方が雑なのか丁寧なのか、自分でも判定できない。

新機種のニュースは、性能の話として読むより、自分の手元にあるものとの距離を測る記事になりがちだ。Pixel 11が何を変えるのかは、今の僕にはまだ分からない。分からないまま、発表されたという事実だけで、使い慣れた画面が少し古く見えた。こういう変化は、機械より先にこちらの目に起きるらしい、と書きかけて消した。少し大げさだった。

通知欄へ戻ると、見出しの横に未読の数字が残っていた。Pixel 11の記事を読む前に、僕はその数字を消すため、関係のない通知を一つずつ開いた。読み終えた頃には、発表の内容より、朝からスマートフォンを何度も裏返していた自分の手つきのほうが気になっていた。窓を少し開けるか迷い、湿った空気を入れないよう、そのままにした。

湿った夏の朝にスマートフォンで見るサギソウの写真

今日の花、サギソウの花言葉を読む前に形を拡大した

検索欄に「今日の花」と入れたところで、僕は一度、入力した文字を全部消した。毎朝のように調べているわけではないのに、今日はその四文字を先に置くのが少し急な気がした。窓の外は昨夜の雨を引きずったように白く、07:55の空気は湿っている。

打ち直して出てきたのは、サギソウだった。白い花の形を見て、すぐに鳥に似ていると思ったけれど、その感想は検索結果を読む前にしまっておいた。名前に引っ張られて見ているだけかもしれないし、僕は花を見るとすぐ形の話で片づける癖がある。

花言葉は「夢でもあなたを想う」。画面を指で少し下へ動かし、同じ言葉が別の欄にもあるか確かめた。こういう確認は、間違いを避けたいというより、最初に読んだ一行を信じるまでの時間を延ばしているだけだと思う。

サギソウの写真は、白い輪郭の中央に細い影が集まっていた。僕は花言葉より先に、花びらの左右が本当に同じ形なのかを見てしまい、画像を拡大した。拡大すると、きれいに見えるはずの部分に小さな揺れがあった。

その揺れを見ていたら、さっき消した検索欄の四文字が気になり、もう一度「今日の花」と入力した。別の花が出たらどうするのか、自分でも決めていなかった。候補を並べて選ぶほどのことではないのに、選ぶ前の段階だけは妙に丁寧になる。

結局、サギソウのページを閉じずに、花言葉の一文を読み返した。夢の中まで誰かを想うという意味を、自分のこととして考えたわけではない。ただ、白い形を鳥に似ていると決めつける前に止まれたことだけが、今朝は少し残った。

窓の外から車の音が一台通り、僕は画面を暗くした。指に残った湿り気をズボンで拭いてから、入力欄の文字が消えているかだけ確認した。

夜の暗い台所に置かれた冷蔵庫と取っ手

冷蔵庫の音が止まって、取っ手から手を離せなかった

冷蔵庫の音が止まったので、僕は取っ手に手を置いた。開けるつもりで近づいたわけではない。夜の遅い時間、湿った夏の空気の中で、さっきまで低く続いていた音だけが急に消えた。台所は暗く、冷蔵庫の小さな表示だけが見えていた。

手のひらは取っ手を握らず、上から触れているだけだった。冷えているかどうかを確かめるなら別の場所でもいいのに、僕は金属の端を指でなぞり、扉のゴムが少し浮いていないかまで見た。見たと言っても、暗いのでほとんど見えていない。

音が戻るまで待とうとして、待つ間に取っ手の向きを直した。ほんの少し斜めに見えたからで、直す必要はない。手を離してからも、今度は床に落ちた細い影が取っ手の影なのか、扉の隙間なのかを考えていた。こういう時だけ、目的のない確認が丁寧になる。

やがて冷蔵庫はまた低い音を出した。僕は扉を開けず、取っ手から手を離した。冷気を確かめたかったのか、止まったことを確かめたかったのか、自分でも決めないまま、暗い台所を出ようとしたところで、足元の影をもう一度見てしまった。

細い雨が降る夏の渓谷と濡れた小石

渓谷の水音に、足を置く場所を迷った

靴底が小石を踏む前に、渓谷の水音が聞こえた。18時20分、八月の雨は細くなっていたが、岩の間を抜ける音だけは昼より近く感じる。僕は一度、足を止めた。止まったせいで聞こえたのか、先に聞こえていたから止まったのか、そこはもう分からない。

足元には濡れた小石がいくつもあり、どれも似た色をしていた。水に丸められた形だと思いながら、僕は右足を置く場所を決めきれず、靴の先だけを少し浮かせた。流れの音は一定ではなく、低く続いたあと、岩の裏で急に細くなる。そのたびに、次に聞こえる音を待つような格好になった。

少し進むと、斜面から落ちた葉が水際で引っかかっていた。葉の端だけが水に浸かり、揺れるたびに小さな輪が広がっている。僕は小石よりそちらを長く見てしまい、さっき聞いた水音の方向を忘れかけた。渓谷は近い音と遠い音が混ざるので、耳の置き場所まで迷う。

結局、平らそうな石を選んだ。踏んだ瞬間に靴の中で足が少し滑り、僕は体を戻すために腕を開いた。雨の匂いより、濡れた石の冷たさが先に残った。次の一歩では、音を聞こうとして足元を見ないようにしたが、また小石の形が目に入った。

湿った東京の午後、棚に戻された開封済みの詰め替えコーヒー袋

開封後の詰め替えコーヒーを、袋のままに戻した

開封した詰め替えコーヒーの袋を、いったん容器へ移しかけて、僕は手を止めた。午後の台所は湿気があり、窓の外では細い雨が続いている。袋の口を持ったまま、白い保存びんの横に置いた。入れ替えたほうが見た目は整うし、棚を開けたときにも少し気分がいい。そう思った直後、見た目のために粉を動かす必要があるのか、と急に面倒になった。

詰め替え用インスタントコーヒーは、開封後に袋のまま保存するのがよいらしい。湿気を避けるための話だと読んだが、僕が引っかかったのは、袋を捨てずに使い続けるというところだった。いつもなら空いた容器を先に用意して、残りをきれいに収めたくなる。今回はその癖だけが先に動き、手があとから追いつかなかった。

袋の中をのぞくと、粉はまださらさらしていて、底の角に少しだけ寄っていた。僕はなぜか、その寄り方を左右から見比べた。量を確かめたいわけでもないのに、片側へ偏ったままだと口を閉じにくそうに見えたから、底を指で軽くならした。こういう必要のない確認に時間を使うのが、僕の台所ではよくある。

結局、袋の口を折り、詰め替えコーヒーを袋のまま棚へ戻した。保存びんは空のまま横に残り、さっきまで移し替えるつもりだった手だけが少し宙ぶらりんになった。次に飲む分を取り出そうとして、袋の折り目を一度開きかけたところで、また閉じた。

雨に濡れた横断歩道の押しボタンと白線

雨の押しボタンを袖口で拭いてから、横断歩道を渡った

押しボタンに指を伸ばしたところで、表面の水滴が気になった。雨は昼になっても止まず、横断歩道の前に立っているだけで、袖の先まで湿ってくる。急いでいるわけではないのに、濡れたまま押すのが少し嫌で、僕は右手を引っ込めた。押しボタンの周りには、誰かが触れた跡なのか、雨粒とは違う細い曇りも残っていた。

そこで、シャツの袖口を使うことにした。布を折り返し、ボタンの中央を一度だけ拭くつもりが、端の水滴まで気になって、指先で押さえながら円を描くように動かした。拭いた布の場所を見ても、濡れたのか元からそうだったのか分からない。僕は確認のために袖口をもう一度見て、そこに小さな糸のほつれがあるのを見つけた。今見るところではないと思いながら、糸を引っぱらずにしまった。

改めて押しボタンを押すと、指には水の冷たさが少し残った。信号が変わるまで、白線の手前で待つ。向かい側へ渡る人の足元を眺めていたら、白線の一本だけが途中で薄くなっていて、そこを踏まないように立つ位置を変えた。雨の音で車の通る気配がぼやけ、青信号になった表示を見てから、僕は袖口を気にしながら横断歩道を渡った。

雨の朝、窓辺から見えるキョウチクトウの白い花

キョウチクトウの花言葉を、白い花より先に読んだ

窓の外で雨が続いているあいだに、僕はキョウチクトウの花言葉をもう一度読み直した。朝七時十分、部屋の明るさは増えているのに、花の写真だけは少し遠く見えた。名前の横に並んだ言葉を、最初からではなく、最後の一つから逆に追っていった。

キョウチクトウの花言葉には「危険な愛」という表現がある。きれいな花に似合わない、と驚くほどではなかったけれど、僕はそこだけを何度も見た。花びらの形より、注意書きのような言葉のほうが目に残る。読み終えてからも、指が画面を閉じる位置で止まった。

雨音が少し太くなり、窓ガラスの水滴が横へ流れた。僕は花言葉の一覧を閉じるつもりで、キョウチクトウの漢字表記まで確認してしまった。調べる必要はないのに、花の名前を途中で見失うのが嫌だったらしい。こういう余計な確認だけは、朝からきちんとしている。

それから写真へ戻ると、白い花の中央にある小さな色の差へ目が移った。そこを見ているうちに、さっき読んだ「危険な愛」という言葉が、花そのものの説明なのか、昔から誰かが貼った札なのか分からなくなった。窓を開けることはせず、表示を消して、雨の音を聞きながら画面を伏せた。

キョウチクトウの花言葉を読んだあとも、僕の中に残ったのは大げさな印象ではなく、閉じる直前に見た花の白さだった。次に同じ花を見かけたとき、先に花を見るのか、言葉を思い出すのかはまだ決めていない。

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