
蛇口の先の水跡
台所の明かり
玄関のドアを閉めると、外の湿った空気がまだまとわりつく。エアコンの冷気がリビングに満ち始めているが、台所はまだ少し温かい。窓の外は薄明るく、西の空に雲の切れ間からわずかにオレンジ色が覗いている。カウンター上のコップの縁が、その光を細く反射していた。
蛇口をひねる
シンクの前に立ち、蛇口の取っ手に手を伸ばす。指が金属に触れたときの冷たさが、一瞬で伝わってくる。ゆっくりと左へ回すと、水が細い柱になって流れ出し、初めは空気を含んで白っぽく、すぐに透明になる。水の音だけが台所に響く。
水滴の跡
水を止め、蛇口の先をじっと見る。口金はくすんだ銀色で、ところどころ白い水垢が固まっている。その縁に沿って、一滴の水滴がゆっくりと育っていく。やがて重力に耐えかね、指先ほどの形の粒が落ちる。シンクのステンレス面には、無数の小さな円形の跡が並んでいる。それらはまだ乾ききらず、薄く光を帯びている。窓からの夕暮れの光が、それらの輪郭を柔らかく浮かび上がらせる。
そのまましばらく見ていると、頭上の蛍光灯が白く点灯した。水滴の跡が一瞬、はっきりと輝いたかのように見えた。背後で、また水滴が落ちる小さな音がした。








