
裏返したソックス
家に着いて、玄関のたたきに腰を下ろす。足の裏がじんわりと熱を持っていて、靴下を脱ぐのに少し間が空く。親指と人差し指でかかと部分をつまみ、ゆっくりと引き抜く。汗で少し湿った感触が指に残る。汗の匂いがかすかに鼻をかすめる。
裏返す
右手で靴下の口を広げ、左手の指を中に差し込む。布が裏返るとき、綿の繊維が擦れてかすかな抵抗がある。表側に出ていた毛羽が今は内側に隠れた。靴下の内部は表よりも少し冷たく感じる。空気の層が変わったせいだ。かかとの部分はほかの場所より布地が薄く、指の形が透けて見える。何度も洗濯を繰り返してきたことがわかる。光の加減で、穴になりかけの小さな隙間がいくつもある。裏返したあと、布の裏地にほこりがついている。
かかとの肌触り
親指でその部分をなぞる。糸が数本切れていて、ざらついた感触だ。ほつれ糸が一本、外灯の光に反射している。窓からの薄明かりが斜めに差し込み、布の表面に影を作る。かかと部分の擦り切れが影の中でよりはっきりと浮かび上がる。外灯の橙色が玄関の壁に当たっている。もう片方の靴下も裏返す。左足用のほうはかかとは無事だが、つま先の内側に薄汚れが固まっている。部分的に色あせた濃淡が、それぞれの足の形を記憶している。二枚の靴下がそれぞれ違う減り方をしている。歩く癖がそのまま布に刻まれている。洗濯かごの縁に置くと、布が少しだけ動いた。風ではない。自分の指の熱が残っていたのだ。空気が静かに入れ替わるのを待っている。








