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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

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朝の街角に立つ自動販売機のガラスに映る曇り空と通りの様子

街角の自販機に映る朝の空

薄曇りの空を映すガラス

街のひと角に立つ自動販売機のガラスに、午後ほどには明るくなることのない薄い灰色の空が揺れている。雨は止み、もう水滴は見当たらないが、空気は湿り気を含んでいる。近くの道路からは車の音が遠く、ひと声だけ、どこかの機械が稼働する音が流れた。指先をポケットの中に沈めつつ、自販機の小さな光沢に視線を泳がせる。

人影のない朝の通り

歩道には傘を手にした人影もなく、コンクリートの冷たさに吸い込まれる街路樹の葉が、一枚静かに揺れている。足元のアスファルトの色が少しだけ濃くて、しっとりとした空気が体の表面でひっそりと広がるのを感じる。通り過ぎる自転車のタイヤがわずかに音を立て、呼吸を整えるように身体の重さが足にかかる。

静かな時間のなかでにじむ感覚

冷たい空気に紛れて、どこか遠い場所から聞こえる電子音。自動販売機のランプの色が微かに変わるたびに、そこに確かな気配があることを再確認する。湿り気を帯びた朝の光の中で、ふと足を止めて隅々を見る。その瞬間、世界の奥にわずかなざわめきが溶け込んでいることを肌で拾った。

霧に包まれた朝の山道にある苔むした岩

山道の岩に腰を下ろして

登山口から少し入ったところで、ちょうど腰かけやすい高さの岩を見つけた。表面は湿っていて、苔が指の腹にざらりと触れる。朝の空気は肌にまとわりつくように重く、シャツの袖が二の腕に貼りついている。

岩の上で体重を移すと、苔がわずかに潰れる感触がある。手のひらで岩肌を撫でると、昨夜の雨を吸った苔が、スポンジのように水分を含んでいるのがわかる。指先が冷たくなっていく。何度も同じ場所を撫でているうちに、苔の表面に小さな窪みができた。

土の匂いと霧

足元の土からは、腐葉土の匂いが立ち上っている。靴の先で落ち葉をそっと押すと、下から黒っぽい土が顔を出す。湿った土は、押した形のまましばらく残っている。

霧が木々の間を流れていく。杉の幹が、近いものははっきりと、遠いものはぼんやりと見える。霧の動きを目で追っていると、自分の呼吸が白く混じるのに気づく。息を止めてみる。霧だけが動いている。また息をする。白い息が霧に溶けていく。

岩の冷たさ

岩に座っている尻が冷えてきた。立ち上がろうとして、また座り直す。手のひらを岩に押し付けて、その冷たさを確かめる。岩の表面には細かい凹凸があって、強く押すと手のひらに跡がつく。

どこかで鳥が鳴いている。声は霧の向こうから聞こえてくるが、姿は見えない。耳を澄ますと、葉から落ちる水滴の音も聞こえる。ぽつり、ぽつりと不規則に。

もう一度立ち上がろうとして、今度は本当に腰を上げる。岩から離れた瞬間、尻のあたりがすうっと冷たくなる。振り返ると、座っていた場所だけ苔の色が濃くなっている。手で触ると、まだわずかに温かい。すぐにその温もりも消えていく。山の朝は、何もかもを元に戻していく。

朝の森の中で蜘蛛の糸に付いた水滴

森の中で蜘蛛の糸に息を止めて

森の中で蜘蛛の糸に息を止めて

杉の幹に手をついた。樹皮がざらりと掌に食い込む。湿った土の匂いが鼻の奥まで入ってくる。朝の森は音が少ない。遠くで鳥が一声鳴いて、また静かになった。

目の前に蜘蛛の糸が一本、枝から枝へ渡っている。糸には小さな水滴がいくつも連なっていた。息をすると糸が揺れそうで、呼吸が浅くなる。水滴は完璧な球体をしていて、その中に森の緑が逆さまに映っている。

樹皮に預けた重さ

手のひらに樹皮の跡がついた。赤くなった皮膚を見つめる。いつからこうして寄りかかっていたのか。肩に力が入っていたことに気づいて、ゆっくりと息を吐く。

蜘蛛の糸はまだそこにある。風もないのに、わずかに震えている。あなたにも見えるだろうか、この細い糸の震え。近づきすぎると自分の息で壊してしまいそうで、少し体を引く。

足元の落ち葉が湿っていて、靴の先が少し沈む。苔の生えた石が転がっている。触ってみると、思ったより冷たい。指先にその冷たさが残る。

水滴の中の世界

もう一度蜘蛛の糸を見る。水滴がひとつ、糸を伝って落ちそうになっている。落ちるか落ちないか、その境目でとどまっている。見ていると首が痛くなってきた。

森の中は薄暗いけれど、糸だけが妙に明るく見える。どこかから差し込む光を受けているのだろう。糸の向こうに、ぼんやりと別の木が見える。焦点を変えると、糸が消えて向こうの木がはっきりする。また糸に焦点を合わせる。この繰り返しをしていると、目の奥がじんとしてくる。

杉の幹から手を離した。掌に樹皮の模様が赤く残っている。それをじっと見つめてから、ゆっくりと森の奥へ歩き始めた。蜘蛛の糸は、まだあそこで震えているだろう。

朝の台所、コンロの上に置かれた揚げ鍋と油こし器

台所の揚げ油と向き合う朝

油こし器の網目を見つめる

台所の窓から入る光が、昨日とは違う。雨雲のせいか、いつもより青みがかって見える。スマートフォンの画面には、94歳のおばあちゃんがアジフライを揚げる動画が映っている。

揚げ油の前で、私の手が止まった。

棚から出した油こし器の網目に、前回の揚げかすがひとつ、引っかかったまま残っている。指先でそれを取ろうとして、やめた。油こし器をそのまま流しに置く。

動画の中のおばあちゃんは、軽やかに衣をつけている。小麦粉、卵、パン粉。その手つきに迷いがない。私は自分の手のひらを見る。まだ何もついていない、ただの手。

揚げ油の温度

鍋に油を注ぐ。透明な液体が、鍋底でゆらゆらと形を変える。菜箸の先を入れてみる。まだ冷たい。

動画では、おばあちゃんが菜箸から立ち上る小さな泡を見ている。私も同じように箸先を見つめる。泡はまだ出ない。

冷蔵庫を開けて、アジを取り出す。スーパーで買ってきたまま、トレイに並んでいる。三枚おろしの切り口が、蛍光灯の下で鈍く光る。

窓の外で、雨粒がガラスを打つ音がする。規則正しくない、ばらばらなリズム。油の温度計を探すけれど、見つからない。引き出しを三つ開けて、諦める。

パン粉の感触

バットに小麦粉を広げる。白い粉が、少し舞い上がる。隣に卵を溶いた皿、その隣にパン粉。この並びだけは、動画と同じにできた。

アジに塩を振る。指先についた塩の粒を、エプロンで拭う。動画のおばあちゃんは、そんなことはしない。次の動作にもう移っている。

最初の一枚に小麦粉をまぶす。裏返すとき、身が少し崩れた。卵液にくぐらせる。黄色い液体が、魚の表面を覆っていく。パン粉の中に沈める。

指先にパン粉がまとわりつく。ざらざらとした感触。子供の頃、母の隣でこの感触を覚えた。あの時は、これが楽しかった。

今は、ただ指先が重い。

油の音が変わった。かすかに、しゅわしゅわと鳴っている。あなたなら、この音をどう表現する? 私には、小さな命が呼吸しているように聞こえた。

夜の浴室で蛇口から水滴が落ちる様子

浴室の蛇口から落ちる水滴

蛇口の先で震える水

浴室の戸を閉めると、外の音が遠くなった。蛇口の先に水滴がひとつ、ぶら下がっている。落ちそうで落ちない。そのまま見ていると、水滴はゆっくりと太っていく。

手を洗ったあとの蛇口は、いつもこうして水を残す。ハンドルをきつく締めても、どこかから染み出してくる。水滴は震えながら、自分の重さと戦っているように見える。

タイルの上に落ちる音が、思っていたより大きく響いた。ポタン、と。次の水滴がもう育ち始めている。

鏡の中の顔

洗面台の鏡に、自分の顔が映っている。蛍光灯の光が真上から降りてきて、目の下に影を作る。髪の毛が額に貼りついている。

石鹸で手を洗い直す。泡立てているうちに、手のひらがぬるぬるしてくる。爪の間にも泡が入り込んで、白く見える。水で流すと、排水口に向かって泡が渦を巻いた。

手についた石鹸の匂いが、鼻の奥に残る。この匂いは朝も嗅いだ。昼も嗅いだ。同じ石鹸で、同じように手を洗って、同じように水を流した。

タイルの目地に沿って

浴室の床は、白いタイルが規則正しく並んでいる。目地の部分だけ、少し色が違う。水垢だろうか。それとも最初からこの色だったか。

裸足の足の裏に、タイルの冷たさが伝わってくる。体重をかけると、足の指が少し開いた。親指の爪が、ちょうどタイルの継ぎ目にはまる。

蛇口からまた水が落ちた。今度は二滴続けて。ポタン、ポタン。音の間隔が、心臓の鼓動よりも遅い。

浴室を出るとき、もう一度蛇口を見た。水滴はまだそこにいて、落ちる準備をしていた。

夜の台所の水切りかごに置かれた食器と水滴

台所の水切りかごに残った水滴

茶碗の底に光る水

台所の明かりをつけると、水切りかごの中で茶碗が白く浮かび上がった。夕食の片付けから、もうだいぶ時間が経っている。

茶碗の底に、水滴がひとつ残っていた。まん丸い形を保ったまま、微かに震えている。指を近づけると、蛍光灯の光が水滴の中で屈折した。

水切りかごのステンレスの網目にも、小さな雫がいくつもぶら下がっている。重力に逆らって、ぎりぎりのところで持ちこたえているものもあれば、今にも落ちそうなものもある。

濡れたままの箸立て

箸立ての底を覗き込むと、水が溜まっていた。菜箸の先が水に浸かったまま、じっとしている。持ち上げてみようかと思ったが、手が止まった。

流し台の縁に、布巾が掛けてある。絞りが甘くて、端から水がぽたりと落ちた。その音が、静かな台所に響く。

換気扇のカバーに、油の跡がうっすらと見える。拭き取ろうとして、また手を引っ込めた。今日はもう、何もしたくない。

皿の重なりが作る影

大皿の上に中皿、その上に小皿。重ねられた皿の隙間に、影が潜んでいる。一番下の皿の縁だけが、かすかに濡れている。

水切りかごの脚元に、水が少し溜まっていた。シンクに流そうかと思ったが、そのままにした。あとで、と呟いて振り返る。

台所の床に、自分の影が長く伸びている。冷蔵庫のモーター音が、低く唸り続けていた。

夜の玄関に置かれた金属製の靴べら

玄関の靴べらが手から滑って

金属の重さ

玄関の扉を閉めて、壁のスイッチに手を伸ばした。蛍光灯がチカチカと二度瞬いてから点く。靴箱の上に置いた鍵が、陶器の皿の中でカチャリと音を立てた。

右足のかかとを左足のつま先で押さえて、靴を脱ぐ。革が足から離れるときの、湿った音がする。靴下の裏が、ひんやりとした床に触れた。

靴べらは、いつもの場所にあった。傘立ての横、壁に立てかけてある。銀色の金属製で、持ち手の部分だけ黒い樹脂で覆われている。

手を伸ばして握ると、思ったより冷たかった。親指が樹脂の境目に触れる。ざらついた表面と、つるりとした金属の違いが、指の腹に伝わってくる。

床に落ちる音

脱いだ靴を揃えようと、しゃがみかけた。膝が曲がりきる前に、靴べらが手から滑った。

金属が床を打つ音が、玄関の狭い空間に響いた。カンと高い音がして、それから小さく転がる音が続く。靴べらは斜めに傾いたまま、靴箱の下の隙間で止まった。

肩の力が抜けた。そのまましゃがみ込んで、落ちた靴べらを見つめる。蛍光灯の光が、金属の表面で細く反射していた。

拾い上げようと手を伸ばしたが、途中でやめた。代わりに、脱いだままの靴に視線を移す。つま先が外を向いて、かかとの部分が少しつぶれている。中敷きの文字が、薄く擦れて読めなくなっていた。

立ち上がるまで

しゃがんだまま、壁に手をついた。ひんやりとした壁紙の感触が、手のひらに広がる。

靴べらは、まだ床に転がっている。拾わなければと思いながら、動けずにいる。玄関マットの端が、少しめくれ上がっているのが目に入った。

深く息を吸い込むと、外から持ち帰った空気の匂いがまだ髪や服に残っているのがわかる。鼻の奥で、夜の湿度を感じた。

ようやく靴べらを拾い上げる。今度は両手で包むように持った。金属の重さが、手のひらにしっかりと伝わってくる。元の場所に立てかけて、ゆっくりと立ち上がった。

初夏の午後の湖畔、波打ち際の砂利と小石、遠くに見える対岸の山並み

湖畔の砂利を踏みしめて

水際の砂利が鳴る

湖畔の駐車場から歩いて、ようやく水際まで来た。足元の砂利が靴底に食い込んで、一歩ごとにじゃりじゃりと音を立てる。立ち止まると、その音だけが消えて、遠くで水鳥が羽ばたく音が聞こえてきた。

波打ち際まであと数歩のところで、しゃがみ込む。手のひらほどの平たい石がいくつも転がっている。ひとつ拾い上げて、親指で表面をなぞる。湿っているかと思ったが、案外さらりとしていた。石を握ったまま立ち上がると、膝がぴりっと痛んだ。

対岸の山がぼんやりと

水面を見渡す。今日は風が弱いらしく、湖面にさざ波もほとんど立っていない。対岸の山並みが、薄い靄の向こうにぼんやりと見える。山の輪郭が空に溶けていくあたりを、しばらく目で追った。

手の中の石を、もう一方の手に移す。思っていたより重い。水に投げ込もうかと思ったが、なぜかそのまま握りしめている。石の角が手のひらに食い込んで、じんわりと跡がつく。

足元の水が動く

波打ち際ぎりぎりまで近づいて、つま先を水に向ける。透明な水の中に、小さな魚の影がちらりと見えて、すぐに消えた。水底の砂利も、陸の砂利と同じような色をしている。

靴の先が濡れそうになって、一歩下がる。さっきまで握っていた石を、足元にそっと置いた。他の石と同じように見えるが、どれだったか、まだ分かる。手のひらに残った石の跡を、もう一方の親指でなぞる。

振り返ると、来た道に自分の足跡が点々と続いている。砂利の上だから、はっきりとは残らない。それでも、へこんだところが分かる。もう一度水面を見て、それから歩き始めた。砂利を踏む音が、また始まる。

午後の陸橋の手すりと階段、街を見下ろす風景

午後の陸橋で手すりに触れて

錆びた手すりの温度

陸橋の手すりに手を置くと、思ったより温かかった。午後の曇り空の下でも、金属はじんわりと熱を持っている。塗装が剥がれかけた部分に指が触れて、ざらりとした感触が伝わってくる。

階段を上がってきたときの息がまだ整わないまま、立ち止まった。下を流れる車の音が、足元から振動として伝わってくる。トラックが通るたび、陸橋全体がかすかに揺れる。

手すりの向こう側、歩道を行く人たちが小さく見える。信号待ちで止まった車の屋根が、曇り空の光を鈍く反射している。排気ガスの匂いが風に乗って上がってきた。

階段の隅に置かれたもの

陸橋の階段の隅に、誰かの忘れ物だろうか、小さな紙袋が置かれていた。コンビニの袋で、中身は見えない。手を伸ばそうとして、やめた。

袋の取っ手が風でかすかに揺れている。誰かがここに置いて、そのまま忘れていったのか。それとも、わざと置いていったのか。

手すりを握り直す。塗装の剥がれた部分が、手のひらにざらざらと食い込んでくる。視線は紙袋から離れない。中に何が入っているのか、知りたいような、知りたくないような。

階段を降りる人の足音が近づいてきて、通り過ぎていく。紙袋はそのまま、階段の隅に置かれている。

振動の中で

もう一度手すりに体重を預けた。下を通る車の振動が、手のひらから腕へ、そして体全体に伝わってくる。目を閉じると、その振動だけが残る。

風が強くなってきた。髪が顔にかかって、手で押さえる。そのとき、階段の隅の紙袋が、風でころりと転がった。中から小さな音がした。

何か硬いものが入っているらしい。でも、それが何なのかは分からない。手すりから手を離して、階段を降り始める。一段、また一段と。

振り返ると、紙袋はまた元の場所に戻っていた。風が止んだのか、もう動かない。陸橋の上に、誰もいなくなった。

午後の街角に停められた古い自転車の錆びた鍵穴のクローズアップ

自転車の錆びた鍵穴に指をかけて

錆の粒が指に引っかかる

街角の電柱の陰に、青い自転車が一台寄りかかっている。サドルの革は端がめくれ、スポークには埃が薄く積もっている。鍵穴のまわりだけ、錆が赤茶色の輪を描いている。

人差し指を鍵穴にかけると、ざらりとした感触が爪の先まで伝わってくる。錆の粒が指紋の溝に入り込む。少し力を入れると、錆が剥がれて指先に赤い粉が残る。

向かいの建物から、誰かが階段を降りる音が聞こえる。規則正しい足音が、一段ずつ近づいてきて、そのまま通りへ出ていく。自転車のハンドルに巻かれたビニールテープが、端から少しずつほどけかけている。

チェーンカバーの内側

しゃがみ込んで、チェーンカバーの隙間を覗く。油で黒くなったチェーンが、埃と一緒に固まっている。カバーの内側には、何年分かの汚れが層になって張り付いている。

膝が地面につきそうになって、体重を片足にかける。アスファルトの細かい凹凸が、靴底を通して伝わってくる。チェーンカバーの縁を指でなぞると、油と埃が混じったものが爪の間に入る。

通りの向こうから、缶を蹴る音が聞こえる。からんからんと軽い音が、建物の壁に反射して戻ってくる。立ち上がろうとして、手を自転車のサドルに置く。革の表面がひんやりと冷たい。

ペダルに残る跡

ペダルの表面に、靴底の模様が薄く残っている。ゴムの突起の跡が、格子状に並んでいる。右のペダルの方が、左よりも深くすり減っている。

親指でペダルを押してみる。軸が錆びているのか、ぎしぎしと音を立てながらゆっくりと回る。途中で引っかかって、それ以上動かなくなる。手を離すと、ペダルは元の位置に戻らず、斜めに傾いたまま止まる。

風が吹いて、前輪のスポークが小さく鳴る。自転車全体がわずかに揺れて、また静かになる。鍵穴のまわりの錆が、午後の光の中で赤く見える。もう一度指を鍵穴にかけて、そのまましばらく立っている。

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