
蝉の抜け殻
歩道沿いのケヤキの幹に、蝉の抜け殻が張り付いていた。高さは目線よりやや上。朝の光が枝葉の隙間から斜めに差し込み、抜け殻の背中を淡く照らしている。樹皮のざらつきに、殻の滑らかさが対照的だ。周囲にはまだ蝉の声は少なく、時折一匹が鳴き始めるだけだ。その声が抜け殻の空洞に反響するのか、微かに共鳴しているように聞こえる。
光が透ける
殻の表面は半透明で、光を通すと内部の空洞がはっきりと浮かび上がる。胸部の裂け目から、脱け出た後の空間が覗く。触れなくても、ほんの数グラムの重さしかないことが分かる。風に揺れるたび、かすかに震える。その震えは、木の葉のざわめきとは違う、微かな別の振動だ。光が当たる角度によって、殻の色が変わる。半透明の部分は琥珀色に見え、影の部分は暗い褐色だ。そのコントラストが、抜け殻を一つの立体として浮かび上がらせる。
爪の先に残るもの
抜け殻の背中にある縦の縫い目。感触を確かめるように、指先でそっと押さえる。硬さは感じるが、弾力はなく、すぐに折れてしまいそうだ。足の先には鉤爪が残っていて、樹皮に食い込んでいる。もう動かない爪の先に、昨日までの生の跡が残っているかのようだ。指を離した後も、その形は変わらずにある。もう一度全体を眺める。抜け殻は、そこにあることだけが役割だ。何かを語るわけでもなく、ただ形を保っている。その静けさが、朝の時間の流れに溶け込んでいる。








