
池の水面で、雨の輪を数えかけた
池の水面は岸から少し離れたところまで灰色に見えて、細かな雨が落ちるたびに丸い輪を広げていた。僕は濡れた草の脇を歩きながら、その輪が重なる場所を避けるように足を置いていたけれど、避けたところで雨は同じように水面へ落ちる。歩き方だけが妙に慎重になった。
昼の空は明るさを残しているのに、池の水面には空の色がほとんど映っていなかった。風が強いわけではなく、草の先も大きく揺れていない。ただ雨の粒だけが一定の間隔で表面を細かく崩している。池の縁に沿って進むと、近くの輪はすぐ見えなくなり、少し先の輪ばかりが目に入った。
僕は一つの輪を最後まで見届けようとして、歩く速さを落とした。中心から広がった線は隣の線に触れたところで形を変え、どちらから来たものか分からなくなる。数えてみようと思ったが、三つ目あたりで別の場所に新しい輪ができた。雨粒には順番がないので、僕の数え方のほうが先に困ってしまう。
岸の土には細い水の筋がいくつかあり、草の根元で途切れていた。そこだけ踏まないように足先を横へ向けると、靴底が柔らかい土に少し沈んだ。戻すほどではないが、このまま進むのも嫌で、片足に体重を残したまま、次に置く場所を見た。池を見るために来たはずなのに、目は足元から離れにくい。
それでも顔を上げると、水面の中央で大きめの輪が一つ広がっていた。大きいといっても、周囲の輪より少し長く見える程度で、何か特別な雨粒だったのかは分からない。僕はその輪の外側を追いながら、岸の曲がりに合わせて体の向きを変えた。視線を先へ送るたび、輪は薄くなった。
腕時計を確認すると、十二時五十五分だった。昼休みの時間にしては池の周りに音が少なく、雨の細い音だけが近くにあるように感じた。湿った空気で眼鏡が曇るほどではないのに、視界の端が少しぼやけている。袖口についた水滴を指で払おうとして、払うほどでもない大きさだと判断し、そのままにした。
帰る向きを決める前に、僕はもう一度だけ岸の近くを見た。水面の輪と、岸から伸びた水の筋が同じ方向へ流れているようにも見えたが、たぶん見ている時間が長くなっただけだろう。足を置く場所を二つ先まで選び、最初の一歩をゆっくり出したところで、また少し大きな輪が横に広がった。








