アスファルトから白線へ
信号が青に変わった。歩き出すと、左足が白線に乗った。靴底を通して、アスファルトとは違う硬さが伝わってくる。塗料の厚みはほんの数ミリのはずなのに、はっきりとした段差がある。
右足も白線を踏む。今度は意識して体重をかけてみた。表面がわずかにざらついているのか、アスファルトよりも滑りにくい。夕方の斜めの光が、白線の凹凸を際立たせている。
子供の頃の癖
ふと、小学生の頃を思い出した。横断歩道では必ず白い部分だけを踏んで渡っていた。黒い部分に触れたら負け、という自分だけのルール。今でも無意識に白線を選んで歩いているのかもしれない。
向かいから来る人は、白線を気にせず歩いている。革靴の音が規則正しく響く。私の歩幅は白線に合わせて不自然に伸び縮みしていた。膝が妙な角度で曲がる。
道路の真ん中で
横断歩道の中央付近で、一瞬立ち止まりそうになった。白線の端が少し剥がれかけているのが見えたからだ。車のタイヤに削られたのか、塗料の下の黒いアスファルトが顔を出している。
後ろから来る足音に押されるように、また歩き始める。残りの白線を数えてみる。あと五本。靴の中で足の指が無意識に動いた。最後の一本を踏み越えて歩道に上がる瞬間、なぜか息を吐いていた。
振り返ると、横断歩道は相変わらず白と黒の縞模様を保っている。次に信号が変わるまで、誰もその上を歩くことはない。街の喧騒の中で、白線だけが静かに横たわっていた。
