洗面所の引き出しを開けて見つけた口紅
スマートフォンの画面に秋の新色化粧品のニュースが流れてきた。まだ六月に入ったばかりなのに、もう秋の話をしている。画面を閉じて、洗面所へ向かった。
引き出しの取っ手が少しべたついている。拭かなければと思いながら、そのまま引く。中には使いかけの化粧品が無造作に転がっていた。口紅が三本、奥の方で横になっている。一番手前のケースを取り出す。キャップを回すと、かすかに甘い香りがした。
鏡の前で手が止まる
斜めに削れた口紅の先端。使い込んだ跡がはっきりと残っている。鏡に向かって、唇にそっと当てる。色はまだしっかりと残っていた。オレンジがかったピンク。買ったときは派手すぎるかもしれないと思った色だ。
唇を軽く合わせて、ティッシュで押さえる。薄く残った色を見つめる。洗面台の白いタイルに、朝の光が斜めに差し込んでいる。窓の外では鳥が鳴いている。
引き出しの奥から出てきたもの
他の二本も取り出してみる。一つは深い赤、もう一つはベージュピンク。どちらもほとんど使っていない。ケースの底に製造番号のシールが貼ってある。指で触ると、少し端がめくれた。
引き出しの奥には、小さなアイシャドウのパレットも眠っていた。蓋を開けると、茶色のグラデーション。一番薄い色だけがへこんでいる。チップは使わずに、指で触っていた記憶がよみがえる。粉が指先についた。
洗面台に並べた化粧品を見下ろす。使わなくなってどれくらい経つだろう。捨てようかと思いながら、また一つずつ引き出しに戻していく。口紅のキャップを回して閉める音が、静かな洗面所に響いた。
