濡れた石の重み
川辺にしゃがみ込んで、足元の石をひとつ拾い上げる。掌に収まる大きさの、角の取れた楕円形。表面は水気を含んでしっとりと濡れ、指先に冷たさが伝わってくる。親指の腹でなぞると、細かな凹凸が感じられる。長い時間をかけて水に磨かれた跡だろうか。
石を持ち替えて、今度は左手で包み込む。ずっしりとした重みが手首にかかる。この重さは、ただの質量以上の何かを含んでいるような気がして、しばらくじっと握りしめている自分に気づく。
水音の向こう側
川は静かに流れている。瀬の音でもなく、激しい水しぶきでもない。ただ水が水の上を滑っていくような、控えめな音。耳を澄ませば、その奥にもっと小さな音が重なっている。小石がぶつかり合う音、水草が揺れる音、どこかで魚が跳ねたような音。
握っていた石を膝の上に置いて、別の石を拾い上げる。今度は平たい形をしている。表面に緑がかった筋が入っていて、まるで地図のようだ。人差し指でその筋をたどっていると、急に立ち上がりたい衝動に駆られる。でも腰は重いまま動かない。
土の匂いと苔の感触
足元の土は湿っていて、スニーカーの底がわずかに沈む。川辺特有の、土と水と腐葉土が混じったような匂い。懐かしいような、少し息苦しいような。近くの岩には苔がびっしりと生えていて、試しに指先で触れてみる。思ったより弾力があって、押すとわずかに水が滲む。
最初に拾った石をもう一度手に取る。さっきより温かくなっている気がする。手の温度が移ったのか、それとも自分の掌が冷えたのか。石を軽く握ったまま立ち上がると、膝についた土を払う。川は相変わらず同じ調子で流れ続けている。石を持ったまま、もう少しだけここにいることにする。
