砂浜の波打ち際で握る貝殻

夕暮れの砂浜で手に握られた小さな貝殻

潮の匂いが鼻先をかすめる。裸足の指先が砂に沈む。右手に握った貝殻の縁が、親指の腹に食い込んでいる。

波が引いては寄せる。足元の砂が少しずつ削られていく。踵が沈み始めたので、体重を前に移す。貝殻を握る手に、じんわりと汗が滲んでいるのがわかる。

薄暗い水平線

空が紫がかってきた。水平線のあたりはもう輪郭がぼやけている。目を細めても、空と海の境目がはっきりしない。風が強くなってきたのか、髪が頬に張り付く。払おうとして、貝殻を握ったままなのに気づく。

波打ち際を少し歩く。濡れた砂が足の裏にまとわりつく。立ち止まって振り返ると、自分の足跡がもう半分消えかけている。次の波が来れば、完全になくなるだろう。

手のひらの重み

貝殻を左手に持ち替える。右手のひらに、うっすらと跡が残っている。指で撫でると、少しひりひりする。改めて貝殻を見る。巻き貝だ。先端が少し欠けている。内側に砂が詰まっているのか、振ると小さな音がする。

また波が来る。今度は膝下まで濡れた。冷たさに、思わず息を吸い込む。貝殻を握る手に、また力が入る。

そろそろ暗くなる。でも、まだここに立っている。貝殻の重みを確かめながら、次の波を待っている。あなたにも、手放せないまま握りしめているものがあるだろうか。私の手の中で、貝殻はまだ温かい。