階段の手すりに触れる指先

薄暗い階段の木製手すりに手を添える様子

薄暗い階段で

玄関の鍵を閉めてから、靴を脱ぐまでの間に息を一つ吐いた。右足のかかとを左手で押さえて靴を脱ぐとき、壁に肩が触れた。冷たい。

階段に向かう。一段目に足を乗せると、古い木がかすかに鳴った。手すりに手を伸ばす。指先が木に触れる。思っていたより温かい。

親指の腹で手すりをなぞる。表面は滑らかだけれど、ところどころに小さな凹みがある。前に住んでいた人たちの手の跡だろうか。それとも自分がつけたものか。もう覚えていない。

一段ずつ上がりながら

三段目で立ち止まった。窓から差し込む光が、壁に斜めの影を作っている。オレンジがかった光。もうすぐ暗くなる。

手すりを握る力が少し強くなった。握ったり緩めたり。木の温度が手のひらに移ってくる。階段の半ばまで来たところで、下を振り返る。玄関が遠く見える。

鞄の重さが肩に食い込んでいることに今更気づいた。左手で肩紐を持ち上げる。右手は手すりから離さない。なぜだろう。離したくない。

踊り場の光

踊り場に着いた。ここだけ少し明るい。小さな窓があるから。外を見ようとしたけれど、体の向きを変えるのが億劫で、そのまま次の階段に向かった。

手すりの端、角の部分で手が止まった。ここは特に滑らか。何度も何度も触られて、角が丸くなっている。人差し指でその丸みをたどる。

あと五段。数えなくても分かる。毎日上っているから。でも今日は一段一段を確かめるように上った。最後の段で、手すりから手を離す。指先がまだ木の感触を覚えている。手のひらを見た。何も変わっていない。当たり前だ。

廊下の奥から、換気扇の音が聞こえてきた。