冷凍庫の中の色彩
台所の電気をつけたまま、冷凍庫の扉を引いた。冷気が足元に流れ落ちる。霜のついた引き出しの奥に、見慣れない紫色が光っていた。
「植物性ミルクのアイス」という文字が目に入る。タイティー。聞いたことのない響きだった。手を伸ばすと、容器の表面についた霜が指先で溶けた。
カップを手のひらで包むと、思ったより軽い。振ってみても音はしない。蓋の絵柄を親指でなぞる。紅茶の葉が描かれているらしいが、霜で少しぼやけている。
紫という色の記憶
紫色の食べ物を最後に口にしたのはいつだったか。紫芋、ぶどう、なす。どれも最近食べていない気がする。冷凍庫の扉を開けたまま、手の中のカップをゆっくりと回す。
台所の床がひんやりと冷たい。素足の裏に、冷気がまとわりつく。扉を閉めようとして、また開く。他のアイスクリームは白や茶色ばかりだ。この紫だけが、妙に目立っている。
蓋を開けようとして、やめた。まだ夕飯の支度が残っている。カップを元の場所に戻すと、指先に霜の跡が残った。
明日のための小さな楽しみ
冷凍庫を閉めると、台所が急に暖かく感じられた。流しの横に置いた買い物袋から、野菜を取り出す。キャベツの葉を一枚むきながら、さっきの紫色を思い出す。
タイティーという名前を、口の中で転がしてみる。どんな味がするのだろう。甘いのか、さっぱりしているのか。スプーンですくったときの感触は。
包丁でキャベツを切りながら、明日の午後のことを考えた。仕事から帰ってきて、誰もいない台所で、あの紫色のカップをもう一度手に取る。そのときは迷わずに蓋を開けよう。窓から差し込む光の中で、ゆっくりと味わってみよう。そんなことを思いながら、まな板の上のキャベツがリズミカルに刻まれていく音を聞いていた。
