信号待ちの手のひら
コンビニを出てすぐの横断歩道で、赤信号に止められた。レシートと一緒に受け取った釣り銭を、まだ左手に握ったままだった。百円玉が二枚と十円玉が三枚。手のひらの中で、硬貨同士がかすかに触れ合う。
朝の空気は思っていたより暖かく、半袖でも寒くない。向かいのビルの窓に、薄い雲を浮かべた空が映っている。窓の数を数えてみようとして、途中でやめた。
横断歩道の白線が、アスファルトの上にくっきりと浮かんでいる。端の方は少しかすれて、下地の黒が見えている。靴の先で、白線の境目をなぞってみる。
硬貨の重みと朝の匂い
手の中の硬貨が、体温でじわじわと温まってきた。指を開いて見ると、百円玉の表面に自分の指紋が薄くついている。また握り直す。今度は少し力を込めて。
隣に立った人が、スマートフォンを取り出した。画面の光が朝の光に負けて、よく見えない。その人も画面を手で覆って、眉を寄せている。
アスファルトから、かすかに独特の匂いが立ち上る。昨日までの熱をまだ少し残しているような、都市の朝の匂い。深く息を吸い込んでみたが、すぐに普通の呼吸に戻った。
青になるまで
信号機の赤い光を、じっと見つめる。LED の粒が規則正しく並んでいるのが見える。目を細めると、光がにじんで大きくなる。
釣り銭を右手に持ち替えた。左手のひらに、硬貨の跡がうっすらと残っている。その跡を、右手の親指でそっとなぞる。
向かいの歩道に、鳩が一羽降り立った。首を小刻みに動かしながら、何かをついばんでいる。人が近づいても逃げない。都会の鳩は人に慣れている。
ポケットの中でスマートフォンが震えた。でも、取り出さなかった。信号はまだ赤のまま。もうすぐ変わるはずだ。硬貨を握る手に、また少し力が入る。
