エコバッグを洗わない人が三人に一人という調査結果を読んで、手が止まった。そういえば、と洗面台に向かう。蛇口をひねると、水音が静かな夜の空気に響く。
布地に残る買い物の跡
引き出しから取り出したエコバッグを裏返す。内側の縫い目に、小麦粉のような白い粉がうっすらと付いている。いつのものだろう。指でなぞると、粉は簡単に落ちた。
洗面台に栓をして、ぬるま湯を溜める。水面に手を入れると、昼間の疲れが指先から溶け出していくような気がする。エコバッグを沈めると、布地から小さな泡が上がってきた。
石鹸の泡と一緒に流れるもの
固形石鹸を手に取る。濡れた布地にこすりつけると、すぐに泡立った。指の間を泡が通り抜けていく感触。あなたもこんな風に、何かを洗いながら別のことを考えたことがあるだろうか。
袋の底の方を重点的にもみ洗いする。野菜売り場の土っぽい匂いが、かすかに立ち上る。レジでの慌ただしいやり取り、重たい牛乳パックを入れた時の布地の伸び。買い物の記憶が、泡と一緒に流れていく。
明かりの下で乾く布地
すすぎ終えたエコバッグを、両手で挟んで水を切る。しずくが洗面台に落ちる音が、規則的に続く。タオルで軽く押さえてから、洗濯ばさみで吊るす。
洗面所の明かりの下で、濡れた布地がかすかに光る。明日の朝にはきっと乾いているだろう。そうしたらまた、新しい買い物の記憶を詰め込むことになる。
手についた石鹸の匂いを嗅ぐ。清潔になったエコバッグが、小さく揺れている。三人に一人は洗わないという。でも今夜、この洗面台の前に立っている私は、その二人の方に入れたような気がして、少しだけ肩の力が抜けた。
