濡れた傘の佇まい
一瞬雨がやみ、駅前の歩道に放置された二本の傘が滴を落としている。風に揺れる樹の枝が濡れ、薄く光を通す紫陽花の葉はまだ冷たい。置かれた傘から垂れる水滴が足元の石畳に小さな模様を描くのを見つめるうちに、時間のくすみのようなものがじわりと広がっていく。
駅前の小さな動き
時間は止まらず、短い間隔で人が行き交う。濡れたベンチの右端に座り、スマートフォンを覗き込む若者の肩が震えるように動いた。足元の水たまりに映る自分の影が頼りなく揺れて、どこか不確かな存在のようだ。遠くで自動販売機の冷気が冷たく漂い、傘を畳む音だけが静かに響いている。
午後の湿り気とともに消える
湿度でふくらんだ空気を手で滑らせてみると、手のひらに引っかかる冷たさがじわりと残る。周囲の匂いは雨に洗われた土の香りに近いが、濡れた舗装の塗料の匂いも混ざって重なる。ふと、脚がすくんだときの軽い震えが戻ってきて、そこに立つ自分の存在が揺らいでいるような錯覚に陥った。傘の滴が再び落ちる音だけが、午後の駅前に静かに響いていった。
