駅前の花屋で立ち止まる朝

朝の駅前にある花屋の店先、バケツに入った色とりどりの花と水滴

バケツの水に映る朝の光

駅前の花屋の前で、ふいに足が止まった。店先に並んだバケツの水面が、朝の光を受けて小さく揺れている。昨日までは気づかなかった場所だ。あるいは気づいていても、見ていなかっただけかもしれない。

バケツの縁に手をかけたくなったが、そうはしなかった。代わりに、水に浸かった茎の切り口を見つめる。白っぽく、少し繊維が見える。水の中で茎はまっすぐ立っているのに、花の重みで先端だけが傾いている。カーネーションだろうか。花びらの縁が細かく波打っている。

店の奥で、誰かが新聞紙を広げる音がした。花を包むための準備だろう。その音で我に返って、自分がどのくらいここに立っていたのか分からなくなる。

濡れた路面に落ちる花びら

足元を見ると、アスファルトに花びらが一枚落ちていた。薄い桃色で、端が少し茶色くなっている。靴の先で避けようとして、やめた。踏んでも踏まなくても、どちらでもいいような気がした。

店の中から、ハサミで茎を切る音が聞こえてくる。パチン、パチンと規則的に。その音を聞きながら、自分の手のひらを見た。昨日、何かを強く握りしめた跡が、まだうっすらと残っている。

隣のバケツに目を移すと、黄色い花が束になって入っていた。花の名前は分からない。でも、その黄色が妙に目に残る。明るすぎもせず、くすみすぎてもいない。ちょうど、今の空の色を少し濃くしたような。

店主の手と、選ばれる花

「いらっしゃい」という声がして、顔を上げると店主が立っていた。エプロンの胸元に、水の染みがいくつもついている。何か答えようとして、言葉が出てこない。店主は特に気にした様子もなく、バケツの水を替え始めた。

古い水を流す音、新しい水を注ぐ音。その間、自分はただ立っている。買うつもりはない。でも、まだここを離れたくない。そんな中途半端な状態で、店主の手元を見ている。

茎を整理する手つきは、迷いがない。この花はこっち、あの花はあっち。選ぶ基準は分からないが、店主の中では明確に決まっているらしい。その様子を見ていると、自分の中で止まっていた何かが、ゆっくりと動き始めるような気がした。