横断歩道の手前で立ち止まる。赤信号の数字がゆっくりと減っていく。カバンの留め金が朝の光を反射している。金属の冷たさが指先に残っているのを、今さらのように思い出す。
足元のアスファルト
白い線の上に片足をのせてみる。塗料の厚みがわずかに靴底を押し返してくる。アスファルトの表面には細かい石の粒が埋まっていて、朝露でうっすらと濡れている。大型トラックが通るたび、地面から微かな振動が伝わってきて、膝が小さく揺れる。
向かいのビルの窓が、空を切り取っている。ガラスに映る雲がゆっくりと流れていく。あなたも同じものを見ているだろうか。信号機の支柱に巻きつけられたステッカーの端が、めくれかけている。誰かが爪でひっかいた跡だろうか。糊の白い筋が、乾いたまま残っている。
待つ人たちの気配
隣に立つ人のイヤホンから、かすかに音が漏れている。リズムだけがこちらに届く。向こう側の歩道には、犬を連れた人が同じように信号を待っている。犬は座ったまま、じっと前を見つめている。首輪の金具が、小さく鳴る。
信号が青に変わる。みんなが一斉に歩き始める。でも私の足は、なぜかもう一拍遅れる。カバンの留め金を、もう一度確かめるように触ってから、ようやく一歩を踏み出す。横断歩道の白い線を、今度は踏まないように歩く。向こう岸まで、あと何本あるだろう。数えながら渡っていく。途中で数がわからなくなって、また最初から数え直す。そんなことをしているうちに、もう向こう側に着いてしまう。振り返ると、次の人たちがもう待っている。
