玄関の靴と深夜の帰宅

深夜の玄関に散らばった靴と薄暗い照明

玄関の薄明かり

鍵を回す音が、深夜の静けさに響く。ドアを開けると、玄関の常夜灯がぼんやりと足元を照らしていた。オレンジ色の光が、床に置かれた靴たちの輪郭をなぞっている。

右足の革靴を脱ぐ。かかとを踏んで引き抜くとき、靴下が少しずれる。その小さなずれが、今日一日の疲れを思い出させる。左足も同じように脱いで、二足並べて置こうとして、手が止まる。

玄関には、すでに三足の靴が散らばっていた。スニーカーが斜めに転がり、サンダルが壁際に寄りかかり、もう一足の革靴が玄関框の端に追いやられている。いつからこんな配置になったのか。

靴を並べる手

しゃがみ込んで、転がったスニーカーを手に取る。布地の表面には、細かい埃がついている。親指でそれをなぞると、ざらりとした感触が指先に残る。

スニーカーを元の位置に戻そうとして、どこが元の位置だったか思い出せない。結局、壁際に寄せて立てかける。次にサンダルを持ち上げると、床に薄い跡が残っていた。そこにあったことの証のような、淡い線。

自分の脱いだ革靴も、きちんと揃えて置く。つま先を玄関框と平行に。でも、なぜ平行にこだわるのか、自分でもわからない。ただ、手がそう動く。

立ち上がるまでの時間

靴を並べ終えても、すぐには立ち上がれない。膝に手をついたまま、玄関の床を見つめている。木目の筋が、常夜灯の光の中で浮かび上がる。

ふと、床に自分の手の影が映っているのに気づく。五本の指が、床の上で別の生き物のように見える。指を動かすと、影も一緒に動く。当たり前のことなのに、しばらくそれを眺めてしまう。

ようやく立ち上がる。膝が少し痛む。廊下へ続く戸に手をかけたとき、背後の玄関をもう一度振り返る。並べた靴たちが、薄明かりの中で静かに待っている。明日の朝、また履かれるまで。

戸を開けて、廊下へ一歩踏み出す。床板が小さく軋む音が、夜の家に吸い込まれていく。