湖畔に寄せる風のささやき
湖面はゆるやかに揺れている。昼下がりの薄曇りの空から届く淡い光は、水の揺らぎに細かな影を落としている。岸辺の草は軽く揺れ、指先に触れると冷たさがじわりと伝わってくる。手を広げ、五本の指の先で微かな風の冷たさを感じ取る。近くの木々はそっと葉音を重ね、あえて騒がしくない、その穏やかな音に耳をゆだねると、身体の中で細かなざわめきが紛れていくようだ。
水辺をふと見つめる
足元の砂利は乾燥していてカリッと踏みしめられ、その音が小さく響く。波によって走る細い水跡は短くて、すぐに湖面に溶けていくのだとわかる。岸に寝転んだ葉っぱが静かに揺れている。湿った空気を誘うような匂いはなく、深い湿度を帯びた緑の香りと張りついた土の匂いが混ざっている。吹き込む風はまだ夏の強い熱気を含まず、爽やかさを忘れがたく体の中まで運んでくる。
時間の重なりの中で
湖面の色は青とも灰とも取れる何色かが混ざりあい、遠くの小さな島はわずかに霞んで見える。見上げた空は厚い雲に覆われたままだが、陰らない風景がただひとつ、そこにある。靴紐を結び直しながら、間近の緑に感じる光の温度を何度も探り直す。繰り返される波紋のように、落ち着きのない内側の動きも静かに受け止めてみる。
