重なる花びらの奥底
窓の外では細かな雨がアスファルトを叩き続け、庭先の植え込みが少しずつ深い色へ沈んでいる。傘をさすか迷うほどの湿り気が空気を重くし、足元からはアスファルト特有の香りが立ち上る。視線を向ける先には、雨を溜め込んだ紫陽花が、まるで何かの重圧に耐えかねるように頭を垂れている。
水滴を抱く球体
紫陽花の花弁を指先でなぞる。四枚の顎が重なり合い、中心へ向かって微かに色を変化させるグラデーションは、見るたびに別の表情を見せる。その一枚に溜まった雨滴は、レンズのように周囲の景色を歪ませて映し出していた。表面は想像以上に硬く、それでいて肌に触れるとひやりとした冷たさが伝わる。茎の断面は断面から水分を吸い上げ、硬質な繊維が束になって支えられているのが分かる。雨粒が花弁を伝い落ちるたび、本体がわずかに揺れ、また元の位置へ戻る。その一連の動作には、抗うことのない静かな従順さが宿っている。
静止した時間
手元には昨夜書き損じた手紙が残っている。返事を書かぬまま放置されたインクの跡と、外の紫陽花の濡れた質感。指を離しても、花弁に残る水滴は零れ落ちることなく、ただそこにとどまり続けている。時計の針は朝を告げているが、部屋の中の時間はまるで止まったまま動かない。雨音が遮断する外界と、この湿った花の姿だけが、今の私の全てを占めている。
