夜の歩道に落ちた紙片を見つめて

夜の街の歩道に落ちた紙片が濡れている様子

錆びた街灯の下に

夜の歩道にぽつんと、濡れた紙片が落ちている。雨はもう上がっているけれど、空気には湿り気が残っていて、辺りは声も音も少しだけ忍び足で動いているようだ。風が弱く吹いたのか、その紙はややよじれて、端がめくれている。その形がなぜか目から離れなくて、つい立ち止まった。

ひとつの断片が映す暮らし

紙の上に視線を置いていると、街のざわめきや街灯の光が、ふっと遠くなる。見上げれば、空は薄墨色に染まり、雨上がりの匂いはしない。それでも、そこにある紙片が、だれかの置き忘れた声のように思えてくる。紙には文字が少し滲んでいて、読み切れない言葉がちらりと見えた。

夜風と手のひら

指先で軽く紙を動かした。水分を帯びた感触が、ひんやりと手のひらに伝わる。乱れた折り目としんなりした感触が、ほんの一瞬、まだ誰かの手の中にあった痕跡を残す。視野の端に、少し先の交差点の信号が青に変わる瞬間が光って映った。小さな気づきだったはずなのに、そのささやかな出来事が、日々の時間のなかでよけいにひろがったり狭まったりする。