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思考と技術の記録。besoft Blog

開発・設計・運用・プロダクトづくりのなかで得た知見を、読みやすくまとめて共有します。

記事一覧

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夜の玄関に置かれた金属製の靴べら

玄関の靴べらが手から滑って

金属の重さ

玄関の扉を閉めて、壁のスイッチに手を伸ばした。蛍光灯がチカチカと二度瞬いてから点く。靴箱の上に置いた鍵が、陶器の皿の中でカチャリと音を立てた。

右足のかかとを左足のつま先で押さえて、靴を脱ぐ。革が足から離れるときの、湿った音がする。靴下の裏が、ひんやりとした床に触れた。

靴べらは、いつもの場所にあった。傘立ての横、壁に立てかけてある。銀色の金属製で、持ち手の部分だけ黒い樹脂で覆われている。

手を伸ばして握ると、思ったより冷たかった。親指が樹脂の境目に触れる。ざらついた表面と、つるりとした金属の違いが、指の腹に伝わってくる。

床に落ちる音

脱いだ靴を揃えようと、しゃがみかけた。膝が曲がりきる前に、靴べらが手から滑った。

金属が床を打つ音が、玄関の狭い空間に響いた。カンと高い音がして、それから小さく転がる音が続く。靴べらは斜めに傾いたまま、靴箱の下の隙間で止まった。

肩の力が抜けた。そのまましゃがみ込んで、落ちた靴べらを見つめる。蛍光灯の光が、金属の表面で細く反射していた。

拾い上げようと手を伸ばしたが、途中でやめた。代わりに、脱いだままの靴に視線を移す。つま先が外を向いて、かかとの部分が少しつぶれている。中敷きの文字が、薄く擦れて読めなくなっていた。

立ち上がるまで

しゃがんだまま、壁に手をついた。ひんやりとした壁紙の感触が、手のひらに広がる。

靴べらは、まだ床に転がっている。拾わなければと思いながら、動けずにいる。玄関マットの端が、少しめくれ上がっているのが目に入った。

深く息を吸い込むと、外から持ち帰った空気の匂いがまだ髪や服に残っているのがわかる。鼻の奥で、夜の湿度を感じた。

ようやく靴べらを拾い上げる。今度は両手で包むように持った。金属の重さが、手のひらにしっかりと伝わってくる。元の場所に立てかけて、ゆっくりと立ち上がった。

初夏の午後の湖畔、波打ち際の砂利と小石、遠くに見える対岸の山並み

湖畔の砂利を踏みしめて

水際の砂利が鳴る

湖畔の駐車場から歩いて、ようやく水際まで来た。足元の砂利が靴底に食い込んで、一歩ごとにじゃりじゃりと音を立てる。立ち止まると、その音だけが消えて、遠くで水鳥が羽ばたく音が聞こえてきた。

波打ち際まであと数歩のところで、しゃがみ込む。手のひらほどの平たい石がいくつも転がっている。ひとつ拾い上げて、親指で表面をなぞる。湿っているかと思ったが、案外さらりとしていた。石を握ったまま立ち上がると、膝がぴりっと痛んだ。

対岸の山がぼんやりと

水面を見渡す。今日は風が弱いらしく、湖面にさざ波もほとんど立っていない。対岸の山並みが、薄い靄の向こうにぼんやりと見える。山の輪郭が空に溶けていくあたりを、しばらく目で追った。

手の中の石を、もう一方の手に移す。思っていたより重い。水に投げ込もうかと思ったが、なぜかそのまま握りしめている。石の角が手のひらに食い込んで、じんわりと跡がつく。

足元の水が動く

波打ち際ぎりぎりまで近づいて、つま先を水に向ける。透明な水の中に、小さな魚の影がちらりと見えて、すぐに消えた。水底の砂利も、陸の砂利と同じような色をしている。

靴の先が濡れそうになって、一歩下がる。さっきまで握っていた石を、足元にそっと置いた。他の石と同じように見えるが、どれだったか、まだ分かる。手のひらに残った石の跡を、もう一方の親指でなぞる。

振り返ると、来た道に自分の足跡が点々と続いている。砂利の上だから、はっきりとは残らない。それでも、へこんだところが分かる。もう一度水面を見て、それから歩き始めた。砂利を踏む音が、また始まる。

午後の陸橋の手すりと階段、街を見下ろす風景

午後の陸橋で手すりに触れて

錆びた手すりの温度

陸橋の手すりに手を置くと、思ったより温かかった。午後の曇り空の下でも、金属はじんわりと熱を持っている。塗装が剥がれかけた部分に指が触れて、ざらりとした感触が伝わってくる。

階段を上がってきたときの息がまだ整わないまま、立ち止まった。下を流れる車の音が、足元から振動として伝わってくる。トラックが通るたび、陸橋全体がかすかに揺れる。

手すりの向こう側、歩道を行く人たちが小さく見える。信号待ちで止まった車の屋根が、曇り空の光を鈍く反射している。排気ガスの匂いが風に乗って上がってきた。

階段の隅に置かれたもの

陸橋の階段の隅に、誰かの忘れ物だろうか、小さな紙袋が置かれていた。コンビニの袋で、中身は見えない。手を伸ばそうとして、やめた。

袋の取っ手が風でかすかに揺れている。誰かがここに置いて、そのまま忘れていったのか。それとも、わざと置いていったのか。

手すりを握り直す。塗装の剥がれた部分が、手のひらにざらざらと食い込んでくる。視線は紙袋から離れない。中に何が入っているのか、知りたいような、知りたくないような。

階段を降りる人の足音が近づいてきて、通り過ぎていく。紙袋はそのまま、階段の隅に置かれている。

振動の中で

もう一度手すりに体重を預けた。下を通る車の振動が、手のひらから腕へ、そして体全体に伝わってくる。目を閉じると、その振動だけが残る。

風が強くなってきた。髪が顔にかかって、手で押さえる。そのとき、階段の隅の紙袋が、風でころりと転がった。中から小さな音がした。

何か硬いものが入っているらしい。でも、それが何なのかは分からない。手すりから手を離して、階段を降り始める。一段、また一段と。

振り返ると、紙袋はまた元の場所に戻っていた。風が止んだのか、もう動かない。陸橋の上に、誰もいなくなった。

午後の街角に停められた古い自転車の錆びた鍵穴のクローズアップ

自転車の錆びた鍵穴に指をかけて

錆の粒が指に引っかかる

街角の電柱の陰に、青い自転車が一台寄りかかっている。サドルの革は端がめくれ、スポークには埃が薄く積もっている。鍵穴のまわりだけ、錆が赤茶色の輪を描いている。

人差し指を鍵穴にかけると、ざらりとした感触が爪の先まで伝わってくる。錆の粒が指紋の溝に入り込む。少し力を入れると、錆が剥がれて指先に赤い粉が残る。

向かいの建物から、誰かが階段を降りる音が聞こえる。規則正しい足音が、一段ずつ近づいてきて、そのまま通りへ出ていく。自転車のハンドルに巻かれたビニールテープが、端から少しずつほどけかけている。

チェーンカバーの内側

しゃがみ込んで、チェーンカバーの隙間を覗く。油で黒くなったチェーンが、埃と一緒に固まっている。カバーの内側には、何年分かの汚れが層になって張り付いている。

膝が地面につきそうになって、体重を片足にかける。アスファルトの細かい凹凸が、靴底を通して伝わってくる。チェーンカバーの縁を指でなぞると、油と埃が混じったものが爪の間に入る。

通りの向こうから、缶を蹴る音が聞こえる。からんからんと軽い音が、建物の壁に反射して戻ってくる。立ち上がろうとして、手を自転車のサドルに置く。革の表面がひんやりと冷たい。

ペダルに残る跡

ペダルの表面に、靴底の模様が薄く残っている。ゴムの突起の跡が、格子状に並んでいる。右のペダルの方が、左よりも深くすり減っている。

親指でペダルを押してみる。軸が錆びているのか、ぎしぎしと音を立てながらゆっくりと回る。途中で引っかかって、それ以上動かなくなる。手を離すと、ペダルは元の位置に戻らず、斜めに傾いたまま止まる。

風が吹いて、前輪のスポークが小さく鳴る。自転車全体がわずかに揺れて、また静かになる。鍵穴のまわりの錆が、午後の光の中で赤く見える。もう一度指を鍵穴にかけて、そのまましばらく立っている。

洗濯機の上に置かれた無香料の柔軟剤ボトル

洗濯機の前で柔軟剤のボトルを見つめて

白いボトルを手に取る

洗濯機の蓋を開けたまま、棚から柔軟剤を取り出す。白いボトルの表面はつるりとしていて、指先が滑る。キャップを回すと、かすかにプラスチックの擦れる音がする。

液体を計量カップに注ぐ。透明な液体がとろりと落ちていく。鼻を近づけても、何の香りもしない。ただ、わずかに粘性のある液体がそこにあるだけだ。

洗濯機の投入口に流し込む。液体は音もなく吸い込まれていく。空になったカップを水道で軽くすすぐ。指についた柔軟剤のぬめりが、水と一緒に流れていく。

香りのない選択

ボトルのラベルをじっと見る。「香りの付かない」という文字が目に入る。以前使っていた柔軟剤の瓶が、洗面所の隅にまだ残っている。あれは花のような、果物のような、何かよくわからない香りがした。

洗濯機のスタートボタンを押す。水が勢いよく流れ込む音が響く。脱いだシャツの襟元を思い出す。汗の匂いも、外の空気の匂いも、全部そのままだった。何かで覆い隠されることなく、ただそこにあった。

窓から差し込む光が、洗濯機の白い表面を照らしている。埃が光の筋の中でゆらゆらと舞っている。

素材の手触り

乾いたタオルを畳む。繊維の一本一本が指に触れる。香りはない。でも、綿そのものの感触がある。太陽に干した後の、あの乾いた匂いもそのままだ。

洗濯物を取り込むとき、風が吹いた。シーツが大きくはためいて、顔に当たる。布地のさらさらとした音だけが耳に届く。

あなたも、何かを選ぶとき、何かを手放すとき、ふと立ち止まることがあるだろうか。白いボトルを棚に戻しながら、次の洗濯物のことを考える。

曇り空の下の川辺に散らばる濡れた石と苔

川辺の石を手の中で転がして

濡れた石の重み

川辺にしゃがみ込んで、足元の石をひとつ拾い上げる。掌に収まる大きさの、角の取れた楕円形。表面は水気を含んでしっとりと濡れ、指先に冷たさが伝わってくる。親指の腹でなぞると、細かな凹凸が感じられる。長い時間をかけて水に磨かれた跡だろうか。

石を持ち替えて、今度は左手で包み込む。ずっしりとした重みが手首にかかる。この重さは、ただの質量以上の何かを含んでいるような気がして、しばらくじっと握りしめている自分に気づく。

水音の向こう側

川は静かに流れている。瀬の音でもなく、激しい水しぶきでもない。ただ水が水の上を滑っていくような、控えめな音。耳を澄ませば、その奥にもっと小さな音が重なっている。小石がぶつかり合う音、水草が揺れる音、どこかで魚が跳ねたような音。

握っていた石を膝の上に置いて、別の石を拾い上げる。今度は平たい形をしている。表面に緑がかった筋が入っていて、まるで地図のようだ。人差し指でその筋をたどっていると、急に立ち上がりたい衝動に駆られる。でも腰は重いまま動かない。

土の匂いと苔の感触

足元の土は湿っていて、スニーカーの底がわずかに沈む。川辺特有の、土と水と腐葉土が混じったような匂い。懐かしいような、少し息苦しいような。近くの岩には苔がびっしりと生えていて、試しに指先で触れてみる。思ったより弾力があって、押すとわずかに水が滲む。

最初に拾った石をもう一度手に取る。さっきより温かくなっている気がする。手の温度が移ったのか、それとも自分の掌が冷えたのか。石を軽く握ったまま立ち上がると、膝についた土を払う。川は相変わらず同じ調子で流れ続けている。石を持ったまま、もう少しだけここにいることにする。

洗面所の引き出しに並ぶ化粧品と口紅

洗面所の引き出しを開けて見つけた口紅

洗面所の引き出しを開けて見つけた口紅

スマートフォンの画面に秋の新色化粧品のニュースが流れてきた。まだ六月に入ったばかりなのに、もう秋の話をしている。画面を閉じて、洗面所へ向かった。

引き出しの取っ手が少しべたついている。拭かなければと思いながら、そのまま引く。中には使いかけの化粧品が無造作に転がっていた。口紅が三本、奥の方で横になっている。一番手前のケースを取り出す。キャップを回すと、かすかに甘い香りがした。

鏡の前で手が止まる

斜めに削れた口紅の先端。使い込んだ跡がはっきりと残っている。鏡に向かって、唇にそっと当てる。色はまだしっかりと残っていた。オレンジがかったピンク。買ったときは派手すぎるかもしれないと思った色だ。

唇を軽く合わせて、ティッシュで押さえる。薄く残った色を見つめる。洗面台の白いタイルに、朝の光が斜めに差し込んでいる。窓の外では鳥が鳴いている。

引き出しの奥から出てきたもの

他の二本も取り出してみる。一つは深い赤、もう一つはベージュピンク。どちらもほとんど使っていない。ケースの底に製造番号のシールが貼ってある。指で触ると、少し端がめくれた。

引き出しの奥には、小さなアイシャドウのパレットも眠っていた。蓋を開けると、茶色のグラデーション。一番薄い色だけがへこんでいる。チップは使わずに、指で触っていた記憶がよみがえる。粉が指先についた。

洗面台に並べた化粧品を見下ろす。使わなくなってどれくらい経つだろう。捨てようかと思いながら、また一つずつ引き出しに戻していく。口紅のキャップを回して閉める音が、静かな洗面所に響いた。

初夏の朝のベランダにある植木鉢と花の葉

朝の植木鉢の前で手を止めて

ベランダの手すりに肘をついて、植木鉢の縁に指を這わせる。素焼きの表面がざらりとして、昨日の水やりの跡が白く残っている。土の匂いが朝の空気に混じる。

隣の鉢の葉っぱが、風もないのにかすかに揺れた。見ていると、葉の裏側に小さな虫が這っている。指先でそっと葉を持ち上げる。虫は慌てたように土の中へ消えていった。

土に触れる朝

しゃがみ込んで、鉢の中の土に人差し指を差し込む。第一関節まで沈んだところで、ひんやりとした湿り気を感じる。指を抜くと、爪の間に黒い土が入り込んでいた。

ペチュニアの記事を朝一番に見たのを思い出す。ニュアンスカラーという言葉が妙に頭に残っている。目の前の鉢には、まだ花は咲いていない。葉っぱだけが青々として、朝の光を受けて少し光っている。

鉢の重さを確かめて

両手で鉢を持ち上げてみる。思ったより軽い。水が足りないのかもしれない。鉢底から覗く根っこが、白く乾いているように見えた。

ベランダのコンクリートに膝をつく。ひんやりとした感触が、パジャマの生地越しに伝わってくる。如雨露を取りに立ち上がろうとして、もう一度鉢を見下ろす。

葉っぱの先端が、少し茶色くなりかけている。親指と人差し指でその部分をつまんで、ぽろりと取る。手のひらに残った葉のかけらを、風に任せて飛ばした。

朝の街角にある自動販売機、曇り空の下で静かに光っている

朝の自動販売機の前で立ち止まって

硬貨を握る手のひら

朝の街角で、自動販売機の前に立っている。財布から出した百円玉二枚が、手のひらの中で温まっていく。湿度の高い朝の空気が、肌にまとわりついてくる。

自動販売機のガラスに、ぼんやりとした自分の姿が映っている。髪が少し乱れているのが見える。直そうとして手を上げかけたが、そのまま下ろした。硬貨を握り直す。手のひらが少し湿っている。

ボタンが整然と並んでいる。コーヒー、お茶、水。どれも同じように光っている。昨日もここで同じように立っていたことを思い出す。そのときは何を選んだか、思い出せない。

ガラスに映るもの

誰かが後ろを通り過ぎていく。足音だけが聞こえて、振り返らない。自動販売機のガラスに、その人の影がさっと横切った。

缶コーヒーのボタンに指を近づける。押さない。隣の緑茶に視線を移す。それも押さない。水のボタンの前で、また止まる。

手のひらの硬貨が、体温でぬるくなっている。握ったり開いたりを繰り返す。金属の匂いがかすかにする。

自動販売機の低い唸り声が、ずっと続いている。時々、中で何かが動く音がする。冷却の音だろうか。それとも別の何かだろうか。

選ばないまま

ガラスに額を近づけてみる。冷たい。中の飲み物がよく見える。どれも同じように並んでいる。値段も同じ。違うのは色だけ。

硬貨を投入口に近づける。でも入れない。また手のひらに戻す。もう一度、全部のボタンを見る。上から下まで。右から左まで。

後ろでまた足音。今度は立ち止まる気配。私の後ろで待っているのだろうか。振り返らない。ガラスに映る景色を見ている。曇り空が、ガラスの向こうに広がっている。

結局、何も買わずに立ち去ることにした。硬貨を財布に戻す。手のひらに、丸い跡が残っている。赤くなっている。

自動販売機を離れて数歩歩いてから、もう一度振り返る。誰もいない。ただ機械だけが、朝の街角で光っている。

夜の台所で開かれた冷蔵庫の光

冷蔵庫の取っ手に残る指紋

台所の明かり

台所の蛍光灯がチカチカと瞬いている。交換時期はとうに過ぎているのに、まだ何とか頑張ってくれている。冷蔵庫の前に立つと、足裏にリノリウムの床の冷たさが伝わってくる。

取っ手に手をかけると、金属の冷たさが指先を包む。今日何度目だろう、この扉を開けるのは。朝の牛乳、昼の残り物、そして今。取っ手には指紋がいくつも重なっている。拭き取ることもなく、ただ積み重なっていく日々の痕跡。

缶の重さ

扉を開けると、庫内の白い光が顔を照らす。目を細めながら、いつもの場所に手を伸ばす。缶ビールが三本、きちんと並んでいる。昨日の夜に補充したものだ。

一本取り出すと、アルミの表面に水滴がついている。手のひらに収まる重さが、妙に心地いい。缶を少し握りしめてから、もう片方の手で扉を閉める。パタンという音が、静かな台所に響く。

プルタブに指をかける。カシュッという音とともに、細かい泡が缶の口から立ち上る。最初の一口を飲むと、炭酸が喉を通っていく。肩の力が少しずつ抜けていくのがわかる。

明かりを消す前に

缶を持ったまま、台所を見回す。流しには夕食の皿が一枚、伏せて置いてある。テーブルの上には、朝刊がそのまま広げられている。冷蔵庫の扉には、磁石で留められたメモがいくつか。

もう一口、ビールを飲む。苦味が舌に広がって、ゆっくりと消えていく。蛍光灯がまたチカチカと瞬く。そろそろ寝室に向かおうか。

缶を持つ手が、わずかに震えているのに気づく。疲れているんだな、と思う。あなたも、こんな夜があるだろうか。冷蔵庫の取っ手に、また新しい指紋が一つ加わった。

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