歩道に落ちる影の揺らぎ
ほのかな湿り気を帯びたコンクリートの歩道に、細かい影の模様が流れていた。新緑が深まる六月の遅い朝、通り過ぎる人々の足音にまじって、小石がわずかに擦れる音が聞こえる。足もとを見つめると、靴の底が微かに擦れているのがわかる。形も色も異なる影が重なり合い、わずかな変化さえ見逃せない。目を伏せて立ち止まると、すぐ近くの植え込みの葉が風に揺れる気配に気づいた。
ベンチの横の小さな出来事
通りの片隅に置かれた古びた木製のベンチ。ペンキが剥がれてざらりとした表面には、誰かが置き忘れた小さな紙切れがひらひらと動いている。足を止めたまま、その動きをただ見ていた。風は強くなく、自然な揺らぎであったが、何度か揺れるたびにこちらの視線も揺れた。だれかが通り過ぎて行き、背中越しに靴音がひびく。ベンチの影が長く伸び、脇の苔むした石畳にゆっくり溶け込む。
視線を静かに留めること
人の流れのあいだで、自分の視線を固定する。通りのざわめきがずっと遠くなるようだった。色の濃い影が伸びるのを待って、指先の先端がふと動いた。何気ない街角での些細な動きが、意識の端からじんわりと伝わってくる。振り返ると、もう戻れない時間の中にいる気がした。そのまま歩き出すこともできたが、もう少しだけ、目の前の影と一緒に息をひそめたくなった。
