駅前のベンチに腰かけて
しめったベンチの木材がひんやりと手に伝わる。傘の滴が時折ぽたぽたと落ちる音に、視線を向ければ濡れたコンクリートがまだ暗い灰色を留めている。ベンチの影はぼんやりとしていて、まわりの足音は遠くこだまするだけだ。
折りたたまれた傘の片隅
見慣れた街の風景の中で、開かれなかった傘はぽつりと寂しげに見える。微かな風に揺れるビニールのカバーが、雨の雫に濡れながらも静かに佇んでいる。時折通り過ぎる人の気配もここまでは届かず、湿った空気が体を包み込んでゆく。
傍らの音と匂いの片鱗
蒸気の混ざった空気のなかで、遠くからバスのエンジン音がぼんやりと響く。湿気に溶けた朝の匂いが、靴の裏に跳ね返る水たまりをかすかに揺らしている。ゆらゆらと揺れる水面に視線を落とすと、思わず息をのむようなささやかな静謐がそこにあった。ここに居るものだけが知るしじま。
