浴室の蛇口から落ちる水滴

夜の浴室で蛇口から水滴が落ちる様子

蛇口の先で震える水

浴室の戸を閉めると、外の音が遠くなった。蛇口の先に水滴がひとつ、ぶら下がっている。落ちそうで落ちない。そのまま見ていると、水滴はゆっくりと太っていく。

手を洗ったあとの蛇口は、いつもこうして水を残す。ハンドルをきつく締めても、どこかから染み出してくる。水滴は震えながら、自分の重さと戦っているように見える。

タイルの上に落ちる音が、思っていたより大きく響いた。ポタン、と。次の水滴がもう育ち始めている。

鏡の中の顔

洗面台の鏡に、自分の顔が映っている。蛍光灯の光が真上から降りてきて、目の下に影を作る。髪の毛が額に貼りついている。

石鹸で手を洗い直す。泡立てているうちに、手のひらがぬるぬるしてくる。爪の間にも泡が入り込んで、白く見える。水で流すと、排水口に向かって泡が渦を巻いた。

手についた石鹸の匂いが、鼻の奥に残る。この匂いは朝も嗅いだ。昼も嗅いだ。同じ石鹸で、同じように手を洗って、同じように水を流した。

タイルの目地に沿って

浴室の床は、白いタイルが規則正しく並んでいる。目地の部分だけ、少し色が違う。水垢だろうか。それとも最初からこの色だったか。

裸足の足の裏に、タイルの冷たさが伝わってくる。体重をかけると、足の指が少し開いた。親指の爪が、ちょうどタイルの継ぎ目にはまる。

蛇口からまた水が落ちた。今度は二滴続けて。ポタン、ポタン。音の間隔が、心臓の鼓動よりも遅い。

浴室を出るとき、もう一度蛇口を見た。水滴はまだそこにいて、落ちる準備をしていた。