茶碗の底に光る水
台所の明かりをつけると、水切りかごの中で茶碗が白く浮かび上がった。夕食の片付けから、もうだいぶ時間が経っている。
茶碗の底に、水滴がひとつ残っていた。まん丸い形を保ったまま、微かに震えている。指を近づけると、蛍光灯の光が水滴の中で屈折した。
水切りかごのステンレスの網目にも、小さな雫がいくつもぶら下がっている。重力に逆らって、ぎりぎりのところで持ちこたえているものもあれば、今にも落ちそうなものもある。
濡れたままの箸立て
箸立ての底を覗き込むと、水が溜まっていた。菜箸の先が水に浸かったまま、じっとしている。持ち上げてみようかと思ったが、手が止まった。
流し台の縁に、布巾が掛けてある。絞りが甘くて、端から水がぽたりと落ちた。その音が、静かな台所に響く。
換気扇のカバーに、油の跡がうっすらと見える。拭き取ろうとして、また手を引っ込めた。今日はもう、何もしたくない。
皿の重なりが作る影
大皿の上に中皿、その上に小皿。重ねられた皿の隙間に、影が潜んでいる。一番下の皿の縁だけが、かすかに濡れている。
水切りかごの脚元に、水が少し溜まっていた。シンクに流そうかと思ったが、そのままにした。あとで、と呟いて振り返る。
台所の床に、自分の影が長く伸びている。冷蔵庫のモーター音が、低く唸り続けていた。
