錆の粒が指に引っかかる
街角の電柱の陰に、青い自転車が一台寄りかかっている。サドルの革は端がめくれ、スポークには埃が薄く積もっている。鍵穴のまわりだけ、錆が赤茶色の輪を描いている。
人差し指を鍵穴にかけると、ざらりとした感触が爪の先まで伝わってくる。錆の粒が指紋の溝に入り込む。少し力を入れると、錆が剥がれて指先に赤い粉が残る。
向かいの建物から、誰かが階段を降りる音が聞こえる。規則正しい足音が、一段ずつ近づいてきて、そのまま通りへ出ていく。自転車のハンドルに巻かれたビニールテープが、端から少しずつほどけかけている。
チェーンカバーの内側
しゃがみ込んで、チェーンカバーの隙間を覗く。油で黒くなったチェーンが、埃と一緒に固まっている。カバーの内側には、何年分かの汚れが層になって張り付いている。
膝が地面につきそうになって、体重を片足にかける。アスファルトの細かい凹凸が、靴底を通して伝わってくる。チェーンカバーの縁を指でなぞると、油と埃が混じったものが爪の間に入る。
通りの向こうから、缶を蹴る音が聞こえる。からんからんと軽い音が、建物の壁に反射して戻ってくる。立ち上がろうとして、手を自転車のサドルに置く。革の表面がひんやりと冷たい。
ペダルに残る跡
ペダルの表面に、靴底の模様が薄く残っている。ゴムの突起の跡が、格子状に並んでいる。右のペダルの方が、左よりも深くすり減っている。
親指でペダルを押してみる。軸が錆びているのか、ぎしぎしと音を立てながらゆっくりと回る。途中で引っかかって、それ以上動かなくなる。手を離すと、ペダルは元の位置に戻らず、斜めに傾いたまま止まる。
風が吹いて、前輪のスポークが小さく鳴る。自転車全体がわずかに揺れて、また静かになる。鍵穴のまわりの錆が、午後の光の中で赤く見える。もう一度指を鍵穴にかけて、そのまましばらく立っている。
