夜のビル街で見上げた換気扇の音

夜のビル街で見上げた換気扇と窓明かり

階段の手すりに触れて

ビルとビルの間の細い通路で足を止めた。左手が自然と階段の手すりに触れる。金属の表面がひんやりとしていて、昼間の熱がもうどこにもない。指先で軽くなぞると、塗装の下にかすかな凹凸を感じる。

見上げると、ビルの壁面に換気扇が並んでいる。四角い枠の中で羽根がゆっくりと回り、低い音を立て続けている。その音は一定のリズムを刻みながら、夜の空気に溶けていく。耳を澄ませていると、別のビルからも似たような音が聞こえてきて、それらが重なり合って都市の呼吸音のようだ。

窓明かりの配置

換気扇の上には窓が縦に並んでいる。点いている明かりと消えた窓が不規則に混じり合い、まるで巨大な棋盤のよう。明るい窓の向こうには蛍光灯の白い光が見え、時折人影がよぎる。その影はすぐに消えて、また静かな四角い光だけが残る。

首が少し痛くなってきた。長く上を向いていたせいだろう。視線を下ろすと、足元のアスファルトに窓明かりがぼんやりと映っている。その光の四角形を踏まないように、一歩横にずれた。なぜそうしたのか自分でもわからない。ただ、光を踏むのが何となくためらわれた。

通路の奥へ

換気扇の音を背中に聞きながら、通路の奥へ歩き出す。両側のビルが迫ってきて、空が細い帯になっている。歩くたびに靴音が壁に反響し、自分の足音なのに他人のもののように聞こえる。

途中で立ち止まり、もう一度振り返った。さっきまでいた場所から、換気扇の音がまだ聞こえている。その音は変わらず一定のリズムを保ち続けている。きっと朝になっても、昼になっても、また夜が来ても、同じように回り続けるのだろう。

ポケットに入れていた手を出すと、指先がじんわりと温かくなっていた。そのまま通路を抜けて、明るい通りへと足を向けた。背後で換気扇の音が少しずつ遠ざかり、やがて街の雑音に紛れて聞こえなくなった。