手すりの冷たさが手のひらに残る
地下鉄の階段を半分ほど上がったところで、息が少し上がった。踊り場で立ち止まる。手すりを握った右手に、金属の冷たさがじんわりと伝わってくる。
階段の端が、何万人もの靴底に磨かれてつるつるになっている。コンクリートの角が丸くなって、もとの形を忘れかけているみたいだ。壁のタイルには細かいひびが走り、その隙間に黒い汚れが入り込んでいる。
下から誰かが上がってくる。革靴の硬い音が、規則正しく響いてくる。その人は私の横を通り過ぎ、そのまま地上へと消えていった。階段にまた静けさが戻る。
踊り場から見える光の形
上を見上げると、地上からの光が四角く切り取られている。その明るさに目を細める。外の空気が階段を伝って降りてきて、地下の湿った空気と混ざり合う境目がどこかにあるはずだ。
壁に貼られたポスターの端が、めくれ上がっている。その下から古い広告の一部が顔を出している。何層にも重なった時間が、こんなところにも積み重なっている。
手すりから手を離すと、手のひらに赤い跡が残っていた。それをゆっくりと開いたり閉じたりする。血の巡りが戻ってくるのを待ちながら、もう一度階段を見下ろす。
靴底に感じる段差のリズム
また歩き始める。一段、また一段。靴底が段差を捉えるたびに、膝に小さな衝撃が伝わる。左足、右足、左足、右足。このリズムに身を任せていると、考えごとがどこかへ流れていく。
途中で、落とし物防止の網が張られた隙間を通り過ぎる。その向こうに、配管やケーブルが複雑に絡み合っているのが見える。普段は見えない都市の内臓みたいだ。
地上が近づくにつれて、外の音が大きくなってくる。車の走る音、どこかで鳴っている工事の音、風の音。地下にいる間は忘れていた街の音が、少しずつ身体に戻ってくる。出口の光がまぶしい。
