湖畔まで降りてきて、足元の石を一つ拾い上げた。手のひらに収まる大きさで、水に洗われて角が取れている。濡れた表面がつるりとして、思ったより重い。
昼下がりの風が湖面を渡ってくる。水の匂いと土の匂いが混じって鼻先をかすめた。握った石から冷たさが指先に移ってきて、じわじわと手のひら全体に広がっていく。
水際の音
波打ち際に座り込むと、小さな波が石を転がす音が聞こえてきた。カラカラと乾いた音ではなく、水の重みを含んだ鈍い音。規則的なようで不規則な、途切れることのない響き。
膝の上で石を転がしてみる。右手から左手へ、左手から右手へ。転がるたびに手のひらの違う場所に当たって、新しい冷たさを残していく。石の表面にある細かな凹凸が、指の腹に小さな圧を作る。
遠くの岸
対岸がかすんで見える。雲が低く垂れ込めているせいか、山の稜線がはっきりしない。水面は鉛色で、ところどころ風の通り道だけが黒く筋になっている。
石を握りしめたまま立ち上がった。投げようかと思って腕を振りかぶったが、そのまま下ろした。重みが急に愛おしくなって、もう一度強く握る。指の間から石の端が飛び出して、手のひらの真ん中に鈍い痛みを作った。
しばらくそうしていたら、石が体温で温まってきた。最初の冷たさはもうない。ただの石になってしまった気がして、急に手を開く。転がり落ちた石は、他の石の間に紛れて、どれだかわからなくなった。
立ったまま、空っぽになった手のひらを見つめる。石の形が赤く跡になって残っている。押し当てていた部分だけ血の気が引いて、白っぽい。指を曲げてみると、さっきまでの重みを探すように、手が勝手に握りこまれた。
