改札の先
いつもよりひとつ隣の駅で降りた。改札を出てすぐ、柱のあたりが立ち入り禁止になっている。黄色いテープが張られ、床には白っぽい跡が点々と広がっていた。
カウンターの駅員が掃除道具を抱えて歩いていく。何人かの乗客はテープをまたいで通り過ぎるが、ほとんどの人は気づかないふりをして脇を通る。
見上げた先
ふと顔を上げると、柱のてっぺん近くに泥でできた巣があった。小さな影が二つ、巣の縁に並んでいる。親鳥が舞い戻り、くわえた虫を雛の口に押し込む。それが何度か繰り返される。
足を止めて見ている人が増えてきた。誰かがスマートフォンを向ける。自分もつい、しばらくその動きを追っていた。
初夏のしるし
駅の構内はいつもと同じアナウンスと足音に満ちている。ただその柱の上だけ、別の時間が流れているように見えた。糞で汚れた床も、テープも、親鳥のせわしない羽ばたきも、ぜんぶがこの季節のなかにある。
改札を出て階段へ向かおうとして、もう一度だけ振り返った。巣は変わらずそこにあって、親鳥はまたどこかへ消えていった。
