足を止めた理由
交差点の手前で、ふと立ち止まった。信号は青だったが、足が前に進まなかった。ポケットに手を突っ込んだまま、目の前の街灯を見上げる。曇りの夜空に、灯りの輪がぼんやり浮かんでいる。湿度が高くて、光がやわらかく散っているようだ。
昨日は霧雨だったらしいが、今は路面もほとんど乾いている。ただ、空気が重い。呼吸をしても、どこか奥まで届かない感じがする。
街灯の下
街灯の根元に、小さな雑草が生えている。葉にほこりがついていて、夜の灯りに照らされている。しゃがんで見るほどでもないが、目がそこに留まる。何かを探しているわけではない。ただ、動きたくないだけだ。
通り過ぎる人の靴音が遠くで聞こえる。自転車のチェーンが乾いた音を立てる。それらが全部、少し遠い世界のことのように思える。
そのまま
結局、信号がもう一度変わるまで、そこに立っていた。青でも赤でもなく、ただ足を止めていることが、今日の自分には必要なのだろう。そう思って、ゆっくりと歩き出した。夜気が首筋に触れる。体温より少し冷たいだけの、五月の終わりの空気だった。
