昼下がりの公園は、空一面の雲に光を薄められて、影がどれも輪郭を持たない。芝の湿りは昨日の名残りで、靴底を通してゆっくりと上がってくる。ベンチの脇で立ち止まり、ためらってから木陰にしゃがむ。布が膝で張り、呼吸は短く整う。遠くで車の走る薄い音。ここは、手の届く範囲だけが確かだ。土と刈り残しの草の匂いが浅く鼻に滞る。袖の内側が肌に貼りつき、少しずつ剥がれる。
木陰の芝に膝を置く
ケヤキの根の盛り上がりに沿って体を傾けると、土の冷たさがふくらはぎの裏に移る。風は弱く、袖口の汗をひとすじ運び去って、すぐに静けさに戻す。指を開けば、クローバーが密に当たり、掌の谷間に小さな弾力を作る。葉の縁はやわらかく、産毛がごく細かく引っかかる。ベンチの板に残ったささくれが指に触れた記憶が、今さら遅れて疼く。膝頭に土がつき、擦るほどに色が濃くなる。
クローバーの面に指を滑らせる
白い小花の球はまだ若く、茎の節が頼りなげに揺れる。爪先で中央の淡い模様をなぞると、薄い膜の下で脈のように光が移る。摘まない。倒れた茎だけをそっと押し返す。その往復で、掌は同じ弧を繰り返す。葉陰から蟻が現れては方向を変え、また隠れる。四つ葉を探す癖が首をもたげるが、視線は模様の境目に留めておく。茎の陰で小さな羽虫が静かに留まり、触れない距離で羽だけを震わせる。あなたがもしここにいたら、この密度の中で呼吸の置き場を探すかもしれない。
反復の手つきと小さなずれ
土の粉が指の皺に溜まり、拭っても薄い影が残る。喉の奥に乾きが差し込み、唇を一度だけ結び直す。肩は抜けきらず、頼りなく肘で地面を支える。ポケットの奥で微かな震えが過ぎるが、手は動かない。掌の下の冷たさだけが、今の位置を確かめる。
雲は厚いままで、光は布越しのように均されている。雲間から差す強さはなくても、緑の面は均一に明るい。葉と葉が触れ合う乾いた擦過が耳に近く続き、少し離れた舗装の匂いが、草の青さと混じってここへ届く。風がひと撫でして、膝裏の汗だけがひやりと退く。空気はひんやりも暑すぎもしない、その中間で留まっている。視線は広げず、手の中のクローバーだけをもう少し見つめる。何も決めないまま、同じ弧を重ねておく。
