土の凹凸をなぞる
窓の外は湿り気を帯びた空気が澱んでいる。部屋の中は低く鈍い色が支配し、電灯の光がテーブルの一角にだけ白い円を作っている。その境界線上に、焼締めの湯呑みが一つ置かれている。指先で縁をなぞると、窯変によって生まれた細かな砂粒のような突起が、皮膚を微かにひっかいた。荒い土の感触は、どこか遠い場所から運ばれてきた記憶の破片のように指の腹に居座る。表面には焼成時に溶け出した釉薬が不規則な釉垂れとなって固まり、黒い影を落としている。
指先に残る温感
掌で側面を包み込む。もう熱さはない。ただ、手のひらの温度を吸い取った陶器の重みが、皮膚を通して骨格に伝わってくる。指を休め、ただじっとその質感を追う。指先が土の凹凸に沈み込むたび、わずかに抵抗が生じる。その抵抗を受け止めながら、ゆっくりと手元を動かす。掌から伝わるのは、冷えゆく土の硬質な冷たさだけではない。かつて指先に触れていた熱の残像が、器の厚みの中に閉じ込められているようだ。光がわずかに揺れ、湯呑みの影がテーブルの上で伸び縮みする。指を離せば、陶器の表面には触れたあとの微かな湿り気が残る。それを眺めるうちに、指先の痺れが少しずつ薄れていく。時計の針の音は聞こえない。部屋全体がこの器を中心にして、ゆっくりと回転しているような感覚だけが、暗闇の中で澱のように溜まっていく。
