剥がれかけた塗装の行方

街角の古いベンチの剥がれかけた塗装

金属の冷たさと剥落

バス停の横、放置されたような鉄製のベンチに腰を下ろす。朝の湿った空気が服の繊維を伝い、背中を冷やしていく。膝の上に置いた鞄の重みを確かめながら、すぐ隣の支柱を凝視する。そこには、幾重にも塗り重ねられた塗料が、薄く剥がれかけていた。一番下にある深い灰色の上に、かつての流行だったのだろうか、くすんだ水色が、さらにその上から無造作に白が重ねられている。

層に宿る時間の積層

指先を伸ばし、わずかに浮き上がった塗料の端に触れてみる。カサリとした乾いた感触が、指の腹を通り抜けた。爪を立てれば、いとも簡単にぱらりと崩れ落ちそうな脆さを抱えている。かつてこの場所で、誰かが指をかけていたであろう位置には、塗装が完全に脱落し、荒れた金属の地肌がむき出しになっていた。光を反射しないその無骨な部分は、周囲の塗装の層と鮮やかな対比を描いている。剥がれ落ちた欠片の行き先を想像し、足元の舗装に目を向けるが、そこには濡れた砂粒がいくつか貼り付いているだけだった。

街を行き交う人の足音は、湿った空気に吸い込まれるようにして小さくなっていく。視線は再びベンチの塗装へと戻る。薄く引き延ばされた塗膜が、わずかな風に震えていた。次の雨が降れば、また少しだけ形を変えてしまうのだろう。そう考えながら、鞄の紐を強く握り直す。立ち上がったとき、背後の支柱に残された剥落の跡が、朝の淡い光を吸い込んでいた。